【低リスク×レバレッジ】リスク・パリティー戦略はオールウェザーのベースとなる投資戦略【ランダムウォーカー】

オール・シーズンズ戦略

名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』のなかで新たなポートフォリオ構築方法として「スマートベータ」と「リスク・パリティー」が取り上げられています。

今回はレイダリオのオールウェザー戦略のベースとなるリスク・パリティー戦略について、『ランダムウォーカー』を参考にしつつ、考察してみたいと思います。

※スマートベータ戦略についても先日記事にまとめておりますので、興味のある方はこちらもご覧ください。

結論:レバレッジを使える投資家は検討の価値あり

リスク・パリティー戦略は単純に高リスク資産から成るポートフォリオよりも、低リスク・低リターンのポートフォリオにレバレッジをかけた方がリスクに対するリターンが高くなるという発想に基づいています。

この投資戦略はレイダリオ率いるブリッジウォーターが開発したものでオールウェザー・ファンドの根幹をなすものです。

高リスク資産と比較して比較的安全性の高い資産はリスクあたりのリターンが高い傾向があるということが分かっており、したがって、低リスク資産にレバレッジをかけることで同じリスク量に対するリターンを高めることができるというわけです。

リスク・パリティー戦略はいわゆるアクティブ運用とは異なります

リスク・パリティー(リスク均等)の名のとおり、コストの低いインデックスファンドを組み合わせ、組入資産クラスがそれぞれ等しいリスク量になるような資産配分を維持することが肝要で、個人の力量・経験による投資判断は必要ありません。

ランダムウォーカーでは、レバレッジに伴う金融リスクを取ることのできる投資家はポートフォリオにリスク・パリティー戦略を加えることで追加リターンが得られる可能性が大きいと述べられています。

世界金融危機を契機に注目された投資戦略

リスク・パリティー戦略が大きく注目されるようになったきっかけは2008年の世界金融危機です。

市場が混迷を極め、主要ファンドが軒並み大幅なマイナスリターンを記録するなか、リスク・パリティー戦略に基づいたブリッジウォーターの「オールウェザーファンド」は大きなプラスリターンを記録しました。

リスク・パリティー戦略の有効性は、より長期間のオールウェザーファンドの運用成績からも見て取れます。

ベンチマークとなるバンガードのインデックスファンドと比較してもリスク調整後リターンが改善している傾向が見て取れます。

この期間では伝統的な60:40ミックスのバランス型ファンドが最も優れたシャープレシオを記録していますが、同ファンドは2007年11月~2009年2月にかけて32%超も下落しており、最大下落幅の観点からはオールウェザーファンドが最も優れた記録を残しています。

低リスク資産×レバレッジのコンセプト

次に低リスク資産にレバレッジをかけるというコンセプトについて簡単に触れたいと思います。

上記は2007~2016年の10年間を対象に、S&P 500インデックスファンドを100%自己資金で保有した場合と、米国長期国債(10年債)に2倍のレバレッジをかけて保有した場合を比較したものです。

この期間ではレバレッジをかけて長期国債を保有した方がS&P 500と比較して低リスクで高リターンが得られたことが分かります。

より長期で見ても、下記のとおり、株式と債券のリスク・リターンを見てみると、長期国債のリスクは株式の半分以下である一方、リターンは株式の62%を記録しています。

つまり、借入コストを考慮しない場合、長期国債に2倍のレバレッジをかけると、株式と同等以下のリスクで1.2倍ほどのリターンが期待できたわけで、リスク・パリティー戦略はこのような経験的な市場の非効率性を利用する投資戦略と言えます。

60/40ミックスとリスク・パリティー戦略

伝統的なバランス型運用の60/40ミックス(株式60%/債券40%のポートフォリオ)と比較しても、リスク・パリティー戦略は優れた資産配分と言えます。

上記グラフの曲線は株式と債券を組み合わせたポートフォリオのリスク・リターンを表しています。

無リスク金利の水準を示すY軸上の切片から、曲線に向けて引かれた直線との接点に位置する株式と債券の組合せをリスク・パリティー・ポートフォリオ(RPP)と呼ぶこととします。

この直線上で、接点より左側の部分はRPPと無リスク資産の組合せからなるポートフォリオを示し、右側は無リスク金利で借り入れてRPPにレバレッジをかけたポートフォリオを示しています。

曲線と直線の接点よりも右側の直線(=RPPにレバレッジをかけたポートフォリオ)は、すべて株式と債券からなるポートフォリオよりも同等のリスクでより優れたリターンが期待できることが分かります。

60/40ポートフォリオと比較してもRPPにレバレッジをかけたポートフォリオの方が高いリターンが期待できることが分かります(リスクは同じだが、点線分だけリターンに差がある)。

オールウェザーファンドは株式と債券だけではない

ここまでは単純化のため、株式と債券だけを運用対象としましたが、実際には株式と債券以外の資産クラスもポートフォリオに組み入れられます

具体的にはREIT(不動産投信)、コモディティファンド、TIPS(物価連動債)などです。

多くの資産クラスを組み入れるメリットは分散効果です。

各資産のリターンの相関係数が低ければ、分散効果によりポートフォリオのリスクは低下します。

また各資産は様々な経済環境に対して異なった反応を示すことも期待できるため、ブリッジウォーター社では同社のリスク・パリティーファンドを「オールウェザーファンド(全天候型ファンド)」と呼んでいます。

※ポートフォリオ内での各資産クラスの相関係数の重要性については、以前記事にまとめておりますので、宜しければこちらもご一読ください。

リスク・パリティー戦略を謳うファンドは無数にあり、それぞれ組み入れている資産クラスや資産配分も様々ですが、株式を運用の中心に据える伝統的な運用手法と比較すると、債券の組入比率が高い点が共通しています(この理論的根拠は上述のとおりです)。

注意点は各資産クラスの期待リターンと相関

さて、そんな魅力的なリスク・パリティー戦略にも当然のごとく留意点もあります。

①今後の債券利回り

リスク・パリティー戦略では債券の組入比率が高いのが特徴ですが、1980年代から現在に至るまで債券市場には大いなる追い風が吹いていたことを忘れてはなりません。

1980年代に10%を超えていた米国長期国債の利回りは、2020年には0.5%まで下がりました。

つまり、過去40年ほど債券価格はほぼ右肩上がりだったわけですが、すでに債券利回りはほぼ限界まで下がり切ったと言えます。

したがって、これから債券をポートフォリオの中心に据えた運用をしても過去数十年と同等のリターンを得ることは難しい可能性が高いです。

②各資産のリターンと相関

資産運用業界がこの数十年でより洗練され、市場参加者も増えたことで、過去に各資産に期待できたような(リスクに対する)超過リターンを得ることは徐々に難しくなってきています

また、例えば商品市場で言えば主要な商品である原油に対して、シェールオイルやクリーンエナジーなどの構造的な価格押下げ要因もあり、今後はコモディティの組入メリットが低下する可能性もあります。

さらに言えば、各資産クラスと株式の間の相関がかつてよりも高まってきている(もしくは今後高まる)可能性もあり、その場合、期待した分散効果が得られない可能性もあります。

③レバレッジリスク

リスク・パリティー戦略を真に魅力的なものとするにはレバレッジを活用したいところです。

しかしながら、レバレッジには当然リスクが伴います。

自己資金のみの運用ならば、最悪有り金を失うだけで済みますが、レバレッジをかけた運用の場合、追証という恐ろしい事態が発生する可能性があります。

したがって、レバレッジリスク(金利変動・追証発生等)を管理する余裕がない投資家にとっては、リスク・パリティー戦略の魅力は半減してしまう可能性があります。

所感:恒常的なレバレッジ活用を検討したい

いくつか留意点はあるものの、私が活用しているIB証券では年1.7%程度の借入コストでレバレッジをかけることができるようです。

正直、今まで気にしていなかったのですが、改めて調べてみて、この借入コストならレバレッジをかけた方がよさそうだなと思いました。

個人的には15-20%程度のレバレッジならば、借入比率としても非常に健全な範囲で、むしろこの程度のレバならかけるべきだと思っています。

今積極的にレバレッジをかけてリスクを負っていきたいかと言われると疑問ですが、平時においては15-20%程度のレバを維持し、通常の下げ相場で30%、コロナショックのような非常事態でも40-50%にレバをコントロールする形で今後は運用しようかなと思っています。

本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。

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