レイダリオ氏がYahoo! Financeのインタビューに応じており、内容が興味深かったので、記事にしてみました。
ドルの基軸通貨としての地位が揺らぎはじめる
現在、米国をはじめとする西側諸国がロシアへの制裁を行っているが、これは今後のドルの行く末に影響を与えるということをレイダリオ氏は指摘している。
現実として、すでにドルを基軸通貨とする既存の金融システムから出ていこうとする者たちが出てきている。
たとえば、インドはドルを介さずにロシアと直接やり取りをしているし、接収や資産凍結のリスクを考えてドル建て資産から逃げ出す動きもみられる。
こういうと何か前例のない大変なことが起きているように感じるかもしれないが、実際には同様の事象が過去に何度も繰り返されている(ので、特別新しいことではない)とレイダイオ氏は言う。
過去500年間の覇権国と基軸通貨の移り変わりを研究したきたレイダリオ氏はこの辺りに世界で最も造詣が深い人物のひとりだろう。
貨幣価値は棄損されるだろう
今起きていることは本質的には貨幣価値の棄損(=実質的な通貨の切り下げ)だが、過去にも同じことが何度も起きているとレイダリオ氏は続ける。
彼が決まって例に出すのは、1933年のルーズベルト大統領によるドルの切り下げと、1971年のニクソン大統領による金本位制からの離脱だ。
1971年の金本位制からの離脱(=通貨の切り下げ)後、アメリカは70年代を通しての高インフレ期を迎えることになる。
このような状況下でも株価は上がるかもしれないが、現金はゴミ(Cash is trash)である。
また、人々はインフレが継続するにつれて、保有している債券が実質的にはネガティブリターンを生み出していることにも気づき始める。
そして、現金や債券を別の資産に変えようとする動きが加速しはじめ、このことはよりインフレを加速させることになる。
つまり、インフレはそれ自体が自己強化的(Self-reinforcing)なものなのである。
特に借入コストがインフレ率と比べて低い状況では、借入によって他の資産を買うことが正当化されるため、よりインフレを助長しやすい。
レイダリオ氏は我々が現在置かれている状況は1970年代に非常に近しいものになってきていると述べている。
今後のFRBの利上げについて
今年7回の利上げがあるという言うと「そんなにか!」と思うかもしれないが、7回利上げしたところで金利はせいぜい2%ちょっとくらいしかならない。
ただ、このたった2%の金利でも株式投資家にとっては難しい局面を作り出すだろう。
現金や債券の名目リターンを押し上げることで株式の魅力を相対的に失わせることに加え、FRBが量的引き締めによって、市場から資金を引き上げ始めるからだ。
しかし、改めて考えてみると、現在の7%を超えるインフレ率と比べると2%という金利水準でも低すぎると言える。
よって、インフレを抑えるために十分な引き締めと利上げをすることは、金融市場と実体経済の両方を痛めつけることになるだろう。
恐らく1年後にはインフレが高止まりするなかで、インフレを抑制するために経済と市場を犠牲にして、更なる利上げを行うかどうかの極めて難しい選択をFRBは迫られることになるとレイダリオ氏は述べる。
金利を上げるとインフレは抑えられても経済と金融市場を痛めつけてしまうし、金利を上げなければインフレが高止まりして結果的にそれも経済によくない影響を及ぼすだろう。
FRBはすでにこのふたつのトレードオフに直面しており、現実的には我々はこの中間ともいうべきスタグフレーションに陥る可能性が高いだろうというのがレイダイオ氏の見解だ。
Moneyとは何か?
恐らくは今後のインフレ等によってドルをはじめとする各通貨の価値が棄損されていくなかで、投資家はどうすればよいのだろうか。
まず、債務性資産(債券等)はよい投資対象とは言えないとレイダリオ氏は述べる。
高インフレかつ低金利の状況では実質リターンが著しくマイナスになるからだ。
また、通貨も債務(Debt)であることを認識しなくてはならない。
元本が保証されつつ、クーポン(預金金利等)が得られるという意味で、通貨は債券と同質と考えられるからだ。
通貨には、交換手段(Medium of Exchange)と価値の貯蔵手段(Storehold of Wealth)としての役割があるが、現在の状況を考えると、特にドルは価値の貯蔵手段として不適切な存在になっていくとレイダリオ氏はみている。
各主要通貨はいずれも多額の債務を抱えているが、相対的にドルが現在の地位を失っていく可能性が高いということだ(前述のとおり、すでに一部ではその兆候が見られている)。
今はドルの代替となる価値の貯蔵手段として、いくつかの資産が競い合っている状況だが、暗号資産がそうなるかもしれないし、ゴールドかもしれないし、デジタル人民元かもしれない、とレイダリオ氏は言う。
そして、いつものとおり、スタグフレーションが来ることを想定しつつ、そうした環境におけるバランスの取れた分散投資を行わなくてはならないというのが彼のアドバイスだ。
確定利付債を避けつつ、実物資産の比率を高めるのが正解?
レイダリオ氏のアドバイスを踏まえると、以下のような投資方針が望ましいということだろうか。
1.債券(確定利付債)はなるべく避ける
現在の経済環境において債券に投資するということは、今後インフレ率が急激に低下しない限り、マイナスの実質リターンを確定させることと同義なため、おすすめできないというレイダリオ氏の見解には同意です。
なので、一般論として、債券への投資は避けるか、資産配分は低めにした方がよいのでしょう。
2.インフレに強い資産の比率を上げる
では債券を避けた分、余った資金はどこに振り向けるのがよいのでしょうか。
思いつくのは下記のようなアセットでしょうか。
・現物のコモディティ…ゴールドETFなどを通じて、コモディティそのものへのエクスポージャーを確保する
・コモディティ関連株…スタグフレーションにおいても、インフレでコモディティ価格は上昇すると考えられるので、コモディティ価格の上昇の恩恵を受ける企業の株式を所有する
・不動産…現物資産であり、理論的には家賃や物件価格はインフレに連動することから、不動産(REIT)も有効な投資対象になる可能性がある
・暗号資産…ドルをはじめとする既存通貨の代替として価値の貯蔵手段として機能する可能性がある
ただ、個人的には市場の先行きを見通して、自分のポジションを調整したりするのは、ただのアクティブ運用であり、中長期的にはコストに見合う結果を手に入れられない可能性の方が高いと思っております。
また、現状のポートフォリオもそれほどインフレに脆弱な資産構成にはなっていないはずなので、これまでとおりの運用を継続していきたいと思っています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
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