先日、レイダリオのオールウェザーポートフォリオのベースとなる「リスク・パリティー」について取り上げました。
今回はリスク・パリティー戦略を採用するETFのうち、最も運用資産額が大きい『RPAR』を参考にしながら、引き続きリスク・パリティーについて考察してみたいと思います。
結論:株式・コモディティ・ゴールド・国債・TIPSを組み合わせる
リスク・パリティー戦略を標榜するRPARの内訳は下記のとおりです。
ご案内のとおり、リスク・パリティーのコンセプトは、株式のリスク(頻繁・多額・長期に及ぶことのある損失)を避け、より安定的なリターンを求めることがメインです。
そのために各資産クラスのリスクを均等に配分することが肝要になります。
RPARも株式よりもボラティリティと最大下落幅を抑えながら、長期的には株式に近いリターンを出すことを目指しています。
上表のとおり、ポートフォリオの債券部分(米国国債・TIPS)に40%レバレッジをかけているため、全体としては20%のレバレッジがかかっている状態を目標資産配分として定めています。
このアセットバランスは2008年と2020年の株価急落局面でもよく機能しており、今後も同様のパフォーマンスが期待されています。
※現在の目標資産配分は長期の目標資産配分と乖離していますが、この点については後述します。
RPARの基本情報
RPARはEvoke-ARISという運用会社の商品ですが、同社に2人いるManaging Partner/Co-CIOのうちの1人が元ブリッジウォーターの人ですので、本家オールウェザーのエッセンスが含まれていると見て間違いないでしょう。
設定日は2019年12月12日ですが、直後にコロナショックが発生したことはRPARにとっては追い風になったと言っていいでしょう。
下記のとおり、最大下落幅がMSCI World Index(全世界株)と比較して半分以下で済んだこともあり、実際にRPARのコンセプトが機能することが確認されました。
この事実も追い風となり、AUMの伸びも好調で、発足から半年で500億円($500m)、13ヶ月で1,000億円($1.0bn)を突破しています。
下記のとおり、発足以来、毎月安定的な資金流入が続いていることが分かります。
各資産クラスの保有根拠
RPARに組み入れられている各資産クラスはそれぞれ異なる経済環境下で優れたリターンを記録することが期待されています。
下記が各資産クラスにとって好ましい経済環境をまとめた表です。
好景気・不景気、インフレ・デフレのそれぞれの経済環境が異なった影響を与える資産を組み合わせてポートフォリオを構築しようとしていることが分かります。
長期的に株式に近いリターンを出していくため、各資産クラス内での組入銘柄については、下記のとおり、工夫が図られています。
個人的にはこのブログを始めた当初からオールシーズンズ戦略のコモディティ部分は株式で代用しており、RPARでも同様の対応がされていたのはちょっとしたポジティブサプライズでした。
また私自身も新興国株を若干オーバーウェイトしており、この点もRPARと一致しています。
債券部分については、オールシーズンズ戦略同様、長期債を中心に据える運用スタイルが志向されています。
過去のパフォーマンスを見ると中期債の方がシャープレシオは高いのですが、おそらく目標リターンを出すためには、中期債の場合には更なるレバレッジが必要であり、過度なレバレッジリスクを避けるため、長期債×低レバレッジという選択肢になっているものと思料します。
各資産クラスの過去のパフォーマンス
上表は2000年1月(コモディティは2001年1月)からの各資産クラスのリターン・リスク・全世界株との相関係数をまとめた表です。
TreasuriesとTIPSについては、Global Equitiesよりリスクが低いため、それぞれ1.4倍のレバレッジをかけてあげるとちょうど株式と同等程度のリスクに調整できることが分かります。
リスクパリティーではポートフォリオを構成する各資産のリスク量を均等にすることがベースになっており、これが前述のとおり、国債とTIPSに40%ずつレバレッジをかける根拠になっています。
実際に各資産クラスの過去のパフォーマンスを2年ごとに見ると興味深い傾向が見て取れます。
個人的には各年ではなく、2年ごとというのがミソな気もしますが、いずれにせよ、上記の前提のもとでは各資産クラスのパフォーマンスが2年ごとに見事に入れ替わっています。
表下のEqual-Weightedというのは5つの資産クラスを均等に保有し、毎年リバランスした場合のリターンを示しており、当該期間では8.4%といい感じのリターンをほぼ損失を出すことなく記録したことが分かります(損失を記録したのは2014-2015年の▲1%のみ)。
この数字は全世界株の5.2%や、伝統的な60/40ポートフォリオの5.6%を大きく上回っており、特に株式が低迷する期間においてはリスク・パリティー戦略が相対的によく機能する可能性が示唆されています。
デフレ環境下での資産配分修正
「過去の実績が魅力的なのはわかるけど、今は債券利回りが歴史的な低水準なわけで、今からこんなに債券中心の運用したらダメじゃない?」という疑問は皆様持たれるかと思います(私もそう思っています)。
RPARも現在の特殊な環境を踏まえて目標資産配分を若干修正しています。
結論としては、歴史的な低金利&デフレ的な環境下においてはTIPSのアロケーションを落とすべきという判断のもと、TIPSの比重を落とし、その分を国債とゴールドに半分ずつ振っています。
この判断は主に2008年の世界金融危機時の経験に基づいています。
FRBによる急激な金利引き下げとその後の不景気によって、短期的ではあるもののデフレが発生したことにより、TIPSは2008年に損失を記録しました(一方、米国債は大きく値を上げてダウンサイドプロテクションとして機能しました)。
TIPSは物価連動債ですので、インフレになると名目リターンが上昇する一方、デフレ環境下では逆にリターンは下がってしまいます。
2020年もコロナによって似たような経済環境になったため、当時の経験を踏まえ、RPARでは上記の対応を取ったようです。
※とはいうものの、これは米国10年債利回りが初めて1%を下回った2020年3月に導入された期間限定的な措置で、2021年3月末には元の資産配分に戻すものとされています。
RPARの銘柄構成
2021年3月末時点の保有銘柄トップ10は以下のとおりとなっています。
超長期債、T-Bill、10年債、全世界株、ゴールド、TIPSという具合ですね。
広く分散しているため、個別銘柄としては上位に出てきていないコモディティ銘柄を含めた全保有銘柄はこちらで確認いただけます(時点は2020年8月末なので若干異なります)。
なお、2020年8月末時点のコモディティのアロケーションは14.8%となっており、業種別内訳は以下のとおりです。
ざっと見たところ、私が保有しているコモディティ銘柄はADM(穀物メジャー)を除き、すべてRPARに組み入れられていました。
RPARのトラックレコードと株価推移
RPARの設定来の各期間のパフォーマンスと全世界株・60/40ポートフォリオとの比較は以下のとおりです。
昨年後半から株式が著しく上げてきていますので、設定来でも直近1年でも株式・60/40ポートフォリオの両方にリターンは劣後しています。
しかし、単純なリターンだけを気にするなら、リスク・パリティーを志向する意味はないわけです。
ですので、実際に2008年以来の大規模な暴落が発生した2020年3月期におけるパフォーマンスを確認してみたいと思います。
全世界株が▲21%を記録した2020年第1四半期をRPARはわずか▲4%で乗り切ったことが分かります。
その後も株式とコモディティの上昇の恩恵を受けながら、2020年を+19%でフィニッシュしており、この数字は全世界株の+16%を上回っています。
この実績がダウンサイドプロテクションや分散効果を期待する投資家の資金を引き付けていることは間違いないでしょう。
所感:どこかの段階で中長期国債を組み入れなければ…
私の場合には、株式をかなりオーバーウェイトしていますので、リスク量は全く均等になっていませんが、RPARの詳細を見てみて、それ以外は各資産クラスでやっていることはだいたい同じだなと感じました。
私が唯一リスクパリティーから大きく外れているのが、債券の部分でして、TIPSは若干組み入れているもの、やはりリスク軽減をしたいなら米国債を保有していないというのはいかがなものかという疑問を改めて抱きました。
昨年は米国債利回りが過去最低を記録した例外的な時期でしたので、つなぎとして購入したハイイールド債辺りはうまく機能してくれたと思うのですが、中長期的に考えるとどこかで米国債のアロケーションを上げていく必要があるのは間違いないところです。
ですので、今後も債券利回りの動向に目を光らせながら、債券ポートフォリオはどこかでテコ入れしたいと思っています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
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