私はレイ・ダリオ氏の推奨する「オール・シーズンズ戦略」を実行するにあたり、コモディティのエクスポージャーを資源銘柄で代替しています。
本日は、石油業界において、スーパーメジャーの一角を占め、売上高においては、あのエクソン・モービルを上回るロイヤルダッチシェル(Ticker: RDSB)について、分析・考察した結果を記事にまとめてみました。
ロイヤルダッチシェルはロンドンの骨董品屋を起源にもつ世界有数の石油メジャー
ロイヤルダッチシェルは、石油や天然ガスなどの生産において、アメリカのエクソン・モービル(Ticker: XOM)、シェブロン(Ticker: CVX)、イギリスのBP(Ticker: BP)とともに、スーパーメジャーと称される1社であり、この4社のなかでは最大の売上高を誇ります。
なお、2021年1月21日時点の時価総額はロイヤルダッチシェルは15兆円規模で、20兆円規模のエクソン・モービル、18兆円規模のシェブロンに次ぐポジションを占めています。
スーパーメジャーという名が表すとおり、ロイヤルダッチシェルは、歴史的にもスタンダード・オイルを起源とするエクソン・モービル、アングロ・ペルシャン・オイル・カンパニーを起源とするBPとともに、20世紀中盤までは世界の石油市場を完全に牛耳っていた、スーパーなプレイヤーです。
石油と天然ガスにおいては、川上に限らず、川下まで含めた垂直統合型のビジネスを展開しており、現在では、世界70か国において、8万2千人の従業員を抱えて事業を行っています。
ロイヤルダッチシェルは、その名のとおり、シェルとロイヤルダッチが合併したことで現在の社名になっています。英語では「Shell」と省略されますので、シェルをベースにロイヤルダッチが吸収されているイメージです。
そんなシェルの歴史は1833年まで遡ります。
もともとはマーカス・サミュエル(Marcus Samuel)というおじさんが、ロンドンで営んでいた骨董品屋がそのはじまりです。
マーカスおじさんは当時、インテリア業界で人気を博していた東洋産の貝殻の取り扱いを始めましたが、これが大当たりしました。
極東からの貝殻の輸出入に勤しむことで、貿易業者としてのベースが出来ていき、これが後の「シェル」につながっていきます。
マーカスおじさんは、1870年に亡くなりますが、事業を引き継いだふたりの息子たちがこの骨董品屋を飛躍させていきます。
彼らは1880年代に石油の輸出ビジネスに関心を持ちましたが、当時の石油は樽詰めされて輸送されており、輸送中に漏れてしまったり、そもそもスペースを取ってしまって、大量輸送が難しいなどの問題がありました。
彼らはこの問題を解決するため、蒸気船によるバルク輸送を試み、1892年、そのうちの1隻であるMurex号が、初めてスエズ運河を通過したオイル・タンカーとなりました。
Murex号によるバルク輸送は、輸送量の劇的な増加とそれに伴うコスト減によって、石油業界に革命をもたらしました。
それに伴い、会社も拡大の一途を辿り、あのスタンダード・オイルを競合として事業を行うに至ります。
1897年、息子たちは、父親の骨董品屋が貝殻を売っていたことから「Shell」の名を取り、社名を「Shell Transport and Trading Company」と改めるとともに、当時オランダ領だったインドネシア・ボルネオ島に最初の製油所を立ち上げます。
一方、ロイヤルダッチは、1890年に「Royal Dutch Petroleum Company」として、当時オランダ領東インドだった、インドネシア・スマトラ島北部の油田開発のために設立されました。
もちろん名前のとおり、オランダの会社です。
このロイヤルダッチですが、1900年代に入るころには、規模こそシェルには及ばないものの、自前でタンカーの製造を始めるとともに、アジアにおける独自の販売網を形成するなど、確かな競争力を有するようになっていました。
実際に輸送分野でのロイヤルダッチの台頭により、シェルが保有する船舶の半数が遊んでいる状態となってしまい、この状況を打開するため、シェルとロイヤルダッチの合併が合意に至ります。
なんとかしてスタンダード・オイルに対抗できるようにならなければいけない、という共通の思いが両社にあったことも一因と言われています。
こうして1907年4月23日に両社の合併が発表され、「Royal Dutch Shell Group」が誕生しました。
なお、ロイヤルダッチシェル株は、オランダに上場している「RDSA」とロンドンに上場している「RDSB」がありますが、日本人投資家が購入すべきは、現地源泉徴収税のないロンドンの「RDSB」の方ですので、以後、略称は「RDSB」として進めていきます。
RDSBの業績推移(売上・利益)
それではRDSBの財務情報を見ていきましょう。まずは業績推移です。
2015年を除いて、営業利益・当期純利益ともにプラスを維持しており、同業のBPなどと比べると、市況変動に強い体質と言えます。
なお、2016年から2018年にかけて、300億ドル(約3.3兆円)規模のリストラクチャリングに取り組んでおり、日本の昭和シェル石油もその一環として、売却され、日本からも撤退しています。
石油業界に限らず、BHPビリトンやリオティントなどの鉱物資源メジャーも近年、同様のリストラを行っており、これは資源業界全体の流れと言ってよいでしょう。
上記のチャートは2015-2020年におけるキャッシュフローの状況を示しています。
RDSBでは事業部門を① Downstream(川下部門:石油製品や化学品の販売など)、② Integrated Gas and New Energy(ガス・新エネルギー部門:LNGやバイオ燃料など)、③ Upstream(上流部門:石油やガスの採掘など)の3つに分けています。
事業性としては、やはりUpstreamが資源価格(主に原油と天然ガス)の影響をもろに受けますので、収益のぶれ幅が大きいことが分かります。
一方で、Downstreamは最も安定して収益を稼ぐ、いわゆるポートフォリオのベースとなる役割を果たしていることも読み取れます。
原油価格が業績に与える影響については、ブレント原油の価格が10ドル上下すると、キャッシュフローが60億ドル(約6,500億円)変動するイメージです。
これだと株価のボラティリティが大きくなるのも仕方ないですね。
キャッシュフローとギアリング(借入比率)については、のちほど触れたいと思います。
RDSBのEPS(1株当たり利益)と配当の推移
次にRDSBのEPS(1株当たり利益)と配当の推移を見てみましょう。
2015~2017年にかけて配当性向が100%を超えていましたが、2015~2019年までは減配せずに持ちこたえていました。
これはのちほど見るとおり、この期間は基本的に資産売却を含めたキャッシュフローの範囲内で配当が賄えていたからです。
上表は2021年1月21日時点の配当と自社株買いを合わせた総還元性向の推移を示しています。
ご案内のとおり、2020年には第二次大戦以降、一度も減配していなかった企業が遂に66%という衝撃的な減配を実行しています。
ただ、減配から半年後には再増配を開始しており、今後は徐々に配当利回りも高まっていくことが期待されます。
上表は、各年のフリーキャッシュフローと、配当及び自社株買いの関係を示したものです。
左の図を見てみると、2019年には利息の支払い・配当・自社株買いの合計がフリーキャッシュフローを超えていたことが分かります。
その後、2020年に原油価格の強烈な下落が追い打ちをかけ、前述の減配に至ったことが読み取れますね。
RDSBのキャッシュフロー(営業CF・資本的支出・フリーCF)
次はRDSBのキャッシュフローです。
変動幅とCapexの額が大きいのは、業種的にしょうがないですね。
キャッシュの使い道については上述のとおり、明確な優先付けがされています。
- 短期の設備投資(Capex)と累進配当の維持
- AA格付水準の達成とそのための負債圧縮
- 追加的な株主還元(配当と自社株買い)
- 追加的な設備投資(Capex)と財務体質の強化
簡単に説明すると『まずは現状を維持するためのCapexと配当の維持を最優先しますが、その次は格付評価を上げるための負債圧縮にお金を使わせてください。それでもお金が余ったら、まずは一部を株主に自社株買いか配当で還元したうえで、更なる事業投資か借入金返済に使います。』といったところでしょうか。
まあ特に何の変哲もありませんが、一回削ってしまった配当についてはこれからは頑張って増配を続けていってほしいところです。
上図は2019年第3四半期と2020年第3四半期のフリーCFを比較したものです。
資源価格の落ち込みから、Integrated GasとUpstreamの川上部門が生み出すキャッシュがほぼ半分になってしまったことが分かります。
一方で川下のOil Productは資源価格の下落が原価改善につながりますので、昨年よりもかなり多くのキャッシュを生み出してくれています。
全体としては$10.1bn→$7.6bnへ、25%ほどフリーCFが減少しました。
2020年第3四半期のブレント原油価格の平均は1バレル43ドルでしたが、2020年1月22日現在では1バレル55ドルとなっています。
前述のとおり、以前の決算資料によれば、原油価格が10ドル上昇すると、CFは$6.0bnほど改善するはずですので、今後の決算でどれほどリカバリーしてくるのか、興味深いですね。
ちなみに純負債残高の方は目標値の$65bnに対して、$73.5bnとなっており、こちらもしばらく原油価格が高止まりしてくれれば、あと一押しで達成できそうな気配もあります。
RDSBの株価チャート
1994年12月30日から2021年1月22日までのRDSBの株価チャートです。
2000年以降、株価は紆余曲折を経ながらも、45~90ドルのボックス相場を続けていましたが、コロナショック~減配発表を受け、一時は鬼のように株価は下がりました。
個人的にも昨年の3月以降は「いい加減にしてくれないかな…」と思いながらもちょびちょび買い増しを続け、結局は現時点ではプラスになっていますが、長期増配(もしくは無減配)銘柄が減配するとどうなるかを身を持って経験させていただくことができました。
資産形成の初期段階でこのような貴重な経験をさせてくれたRDSBには感謝です!
結論:引き続きコモディティ銘柄として保有してみる
私自身は元々ディフェンシブで分散を重視するタイプの運用を心がけておりますし、だからこそレイダリオを尊敬しているわけですが、今回、減配の破壊力を身を持って経験できたことでより一層その志向が強まりました。
したがいまして、これまでは石油銘柄はRDSBに絞っていたわけですが、今後はRDSBに振り向けていた金額を米国や中国の石油企業にも割り振る形でより保守的なポートフォリオに調整したいと思います。
とはいうものの、一旦、大幅な減配に踏み切ったRDSBについては比較的安全な投資対象なのかなとも思っています。
石油関連は将来性は期待されておりませんし、まだまだ減配や業績悪化の可能性も抱えております。
私自身はオール・シーズンズ戦略を参考にしているため、敢えて石油銘柄を保有することにしておりますが、そもそも個別銘柄として保有するべきかも含めて、皆様もご自身でよく検討してみてください。
以上、高配当ADR銘柄・オイルメジャーのRDSBについての考察でした。
本日も最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
コメント
そんなに魅力的な株なのに、何でこんなに高配当利回りで放置されるのでしょうか?
市場が放置するのには理由ががあるのでは?
コメントありがとうございます。おっしゃる通りですね。
私のような素人よりも市場の方が正しいことが圧倒的に多いですし、その観点からいけばRDSBに限らず石油銘柄(というか高配当株全般)は止めた方がいいということになるでしょうか。
差し支えなければ、だるお様の考える主な理由について、後学のためお聞かせ願えませんでしょうか?
私にも分かりませんが、
市況に大きく左右される。
商品価格が半分になったり倍になったりする。(政治要因も大きい)
常に一定の設備投資が必要
代替エネルギーへのシフト
今後拡大していく理由がない
配当利回りは高いが、配当性向がもう限界
ESG関連
こんなところではないでしょうか?
ご返信いただき、誠にありがとうございます。
だるお様のおっしゃるとおりだと思います。
もちろん他にも要因はあるのでしょうが、私は専門家でもないですし、あまり深く追求しても費用対効果はあまりよくないかなと。
あと比較的、効率的市場仮説を信じているところもあるので、結局どの銘柄を買っても期待リターンはそれほど変わらず、研究しまくってもあまり報われないかな、とも思ってます。
これからも色々教えてください!引き続きよろしくお願いします。