私はレイ・ダリオ氏の推奨する「オール・シーズンズ戦略」を実行するにあたり、コモディティのエクスポージャーを資源銘柄で代替することとしています。
本日は、三大資源メジャーのなかでも群を抜く時価総額を誇るBHPビリトン(Ticker: BHP)について、分析・考察した結果を記事にまとめてみました。
BHPビリトンはオーストラリア・メルボルンに本社を置く世界最大の資源メジャー
BHPビリトンは、主に鉱物の生産において、ブラジルのヴァーレ(Ticker: VALE)、英豪のリオティント(Ticker: RIO)とともに、世界の市場で圧倒的な地位を築いている三大資源メジャーの1社であり、この3社のなかでも断トツの時価総額を誇ります。
時価総額は14兆円規模で、2位のリオティントの1.4倍強と、圧倒的な企業価値の差を見せつけています。
それもそのはずで2000年代後半までにBHPビリトンは何度かリオティントの買収を試みています。
結局は2007年にリオティントがカナダのアルミ大手アルキャンを約4兆円で買収したことをきっかけに、現在の三強体制へ業界が再編されていきましたが、歴史的には両社にそれほどの差がありました。
また、鉱物に限らず、石油や天然ガスまで生産しているプロダクトの幅にも、競合他社とは差があります。
競合のリオティントは選択と集中の結果として、石炭事業を完全に売却して事業ポートフォリオから外していますが、BHPにおいては石炭事業は会社の4本柱のひとつとして健在です。
BHPは世界をリードするグローバル資源会社です。弊社は、鉄鉱石、原料炭、銅を含む成長著しい主要コモディティーの、信頼のできる、競争力のあるグローバルサプライヤーであり続けるという信念を持っています。また、石油、ガス、エネルギー用石炭の事業についても大きな権益を有しています。
我々は二元上場会社であり、2つの親会社(BHP Billiton Limited 、BHP Billiton Plc)が単一の事業体として運営されており、BHPと総称しています。統合された1つの取締役会、経営陣により経営されています。
BHPの目標は、天然資源の発見、取得、開発、マーケティングを通じて長期的な株主利益を生み出すことです。また、弊社の戦略は、商品、地理、市場が多様化した、規模が大きく、寿命が長く、低コストで拡張可能な川上のアセットを所有、運営することです。
本社はオーストラリア・メルボルンにあります。主にオーストラリア、南北アメリカ大陸にある生産拠点で鉱物、石油、ガスを採掘・処理しています。我々の製品は、シンガポール及び米国ヒューストンにあるマーケティングの拠点を通じて世界に販売されています。2017年6月30日時点で、BHPは世界に6万人(社)を超える従業員及びコントラクターを有しています。
BHP Billiton HPより引用
リオティント同様、こちらも二元上場会社ですね。リオティントとは本社の所在が逆です(リオティントはロンドンが本拠)が、運営体制としては実質的に同じ構造の会社と言えるでしょう。
BHPビリトンは、その名のとおり、BHPとビリトンという二つの会社が合併してできました。
BHPもビリトンもその歴史は非常に古いです。
BHPは元の名をBroken Hill Proprietaryといいます。同社は1885年に設立され、その名のとおりに豪州のBroken Hillという場所で、銀・鉛・亜鉛の生産を行っていました。
その後、事業を鉄鉱石、銅、石油、天然ガス、ダイヤモンドなど、他の天然資源にも拡大していきます。
そんなBHPが大きく飛躍するきっかけとなったのは、1984年のアメリカ・GE(General Electric)からのUtah Internationalの買収です。
この買収により、BHPは豪州に加え、米国、ブラジル、カナダ、チリの事業基盤を手に入れることとなり、グローバル資源会社として飛躍していきます。
今日においても南北アメリカ大陸は、オーストラリアと並んで、BHPビリトンの事業の柱です。
一方のビリトン(Billiton)ですが、こちらの歴史はより起伏に富んでいます。
起源はBHPよりも古く、1851年にインドネシアのビリトン島で錫(すず)の生産を行っていた会社が基になっています。
当時、インドネシアはオランダ領東インドだった時代で、オランダ人がこの島が非常に錫に恵まれていることを発見し、生産を開始し、ビリトンを世界最大の錫の生産量を誇るまでに成長させました。
そんなビリトンに大きな転機が訪れたのは、1970年でした。
この年、あのロイヤルダッチシェルがビリトンを買収し、以後、約24年間に渡り、ビリトンはロイヤルダッチシェルグループの一員として、活動の幅を世界中に広げていくことになります。
1994年、ビリトンの大部分は南アフリカのGencorに買収されますが、Gencorが1997年にビリトンを手放したことに伴い、ロンドン証券取引所に上場を果たします。
その後、2001年にBHPとビリトンの合併が合意に至り、現在のBHPビリトンが出来上がったという流れです。
BHPの業績推移(売上・利益)
それではBHPの業界での立ち位置や歴史が分かったところで、次は財務情報を見ていきましょう。
まずは業績推移です。ここからのグラフはBHPのAnnual Reportを基に作成しています。
赤字に転落した2015年を除いて、過去10年間に渡り、営業利益率は常に30%以上を維持している恐るべき高利益体質です。ここ3年間は35%前後と一段と高い水準にありますね。
なお、2014年から2015年にかけて著しく売上が減少した理由は、市況の低迷もありますが、South32という別会社を立ち上げ、そちらに非中核事業を移したことによります。
上記のとおり、コアアセット19件に加え、ニッケル、石炭、そして石油関連の資産をいくつか加えたポートフォリオをBHPビリトンに残し、それ以外をSouth32として会社分割しています。
これによって、BHP側のオペレーション効率や収益性が高まり、ひいては企業価値も向上する、との説明が当時の株主に対してなされています。
さらに2018年には米国のシェールガス事業を英BPなどに約1.2兆円で売却しており、近年、事業の選択と集中をどんどん進めてきています。
なお、この売却によって得た104億ドル(約1.1兆円)のキャッシュは、同年中に自社株買いと特別配当によって、株主に即座に還元しており、このあたりの経営方針はリオティント同様、非常に好感が持てます。
上記の円グラフは、2020年度のEBITDAの内訳です。
鉄鉱石が最大の収益源である構造はリオティントと同じです。
2019年は鉄鉱石の占める割合が50%以下でしたので、2020年は原油価格の低迷等もあり、例年よりも若干鉄鉱石頼みの決算となっています。
さらに特筆すべきはその圧倒的な利益率の高さです。
最もEBITDA Marginが低い石炭でも36%で、収益源の鉄鉱石に至ってはEBITDA Marginが70%という驚異的な水準です。
もちろん資源価格の変動による業績への影響は甚大ですが、これだけの利幅が確保できているのは安心感があります。
各資源価格の変動がEBITDAに与える影響については、上表のとおりです。
業績に占める割合が最も大きい鉄鉱石を見てみると、鉄鉱石1トン当たりの価格が1ドル上下すると、236百万ドル(約240億円)ほどEBITDAが変動します。
あとは主要鉱山が所在するオーストラリアの豪ドルにも結構影響されることが分かります。
2017-2019年の主な資源価格の推移ですが、鉄鉱石の価格上昇が目立ちますね。
2019年の平均価格を2018年と比較すると、16%上昇していますし、年度末時点で比較すると前年末の64.5ドルから118.0ドルへと爆上げしています。
およそ50ドルほど上昇していますから、単純計算するとこれだけで50×160億円=8,000億円ほどの業績へのポジティブインパクトになります。すごいことです。
上記の地図は現状のBHPグループの事業展開の状況です。
オレンジの点がアセットの位置、青色の点が事業所の所在地です。オーストラリアとアメリカ大陸に集中していることがよく分かりますね。
最後は開発中のプロジェクトです。資源タイプは石油と銅に絞られていますね。
こちらもオーストラリアと南北アメリカに絞って活動していることが分かります。
BHPのEPS(1株当たり利益)と配当の推移
次にBHPのEPS(1株当たり利益)と配当の推移を見てみましょう。
2015~2017年にかけて減配していますが、2018年以降は上述のシェールガス事業売却に伴う特別配当を出すなど積極的な株主還元を進めており、2020年には2015年以前よりも一段と高い水準の配当が実施されています。
上表は配当と自社株買いを合わせた総還元性向の推移です。
年度ごとのばらつきがかなり大きいので、こういった銘柄に関しては、中期的な目線で均してみてあげる必要がありますね。
2015年は株価が著しく下落していたためにとんでもない利回りになっていますが、過去5年の平均値は4.35%です。
このところ株価が著しく上昇していますので、目先の利回り感は下がってきていますが、株主還元の意識は非常に高く、直近も配当性向は85%程度になっていますので、個人的には非常に好きな銘柄です。
BHPのキャッシュフロー(営業CF・資本的支出・フリーCF)
次はBHPのキャッシュフローです。
業種的に変動幅は大きいですが、営業CFの額がとんでもないです。
時期にもよりますが、競合のリオティントの1.5~2.0倍程度の水準で推移しており、市況がよかった2011年には約300億ドルと、驚異の3兆円超えを記録しています。
また、同業のリオティント同様、この数年は新規プロジェクトへの投資を抑えつつ、既存のアセットの競争力を高める方向性で会社を運営してきたことも読み取れます。
市況が悪くなると、リストラをして企業体質を改善するのはどの業界も一緒ですが、資源業界はまさに直近5年ほどがその時期にあたっていますね。
次の好況時には、このあたりの効果がもろに出てきますので、その時にはBHPもリオティントも直近の最高業績をがっつりと更新してきそうですね。
BHPの株価チャート
1994年11月4日~2021年2月19日のBHPの株価チャートです。
特徴的なのは、2016年1月にリーマンショックよりも低い底値をつけていることです。
過去最高値は2011年4月の98ドルでまだ100ドルを突破したことはありません。
昨年は3月のコロナショック時に大きく値を下げましたが、その後はコモディティ価格の上昇に伴い大きく値を上げてきており、すでに2013年来高値をつけています。
ここから上場来高値を更新してくるのか、ホルダーとして興味深く見守っていきたいと思います。
結論:BHPは高水準の株主還元を実行してくれる、資源業界で最強の銘柄
同業のリオティントと比較しつつ、BHPを分析してみましたが、正にキングオブ資源メジャーといった感じの最強銘柄ですね。
- 他社の追随を許さない圧倒的な事業規模と収益性
- 中期的には一定水準以上の株主還元が期待でき、かつ資産を売却して得たキャッシュはすぐに株主に返す模範的な経営陣の姿勢
- 鉄鉱石価格に代表されるコモディティ市場との高い相関性
Annual Reportやその他の投資家向け資料に目を通すなかで、安心して長期保有できるいい会社であることが非常によく分かりました。
資源銘柄として業績に波があることや、ESG投資の観点から機関投資家からの資金流入が抑えられることから、バリュエーションが他業種に比べて割安になりがちですし、入りのタイミングさえ間違えなければ、10~15年スパンで非常に大きなリターンが期待できる銘柄だと思います。
個人的にもすでにかなり大きな含み益が出ていますし、これからも目標とする資産配分の範囲内で長期保有したい優良な投資先のひとつという位置づけです。
以上、高配当ADR銘柄・資源メジャーのBHPについての考察でした。
本日も最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
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