本家ダリオことレイダリオ氏が2月22日付でLinkedInに「Are We In a Stock Market Bubble?」というタイトルの記事を公開しています。
ダリオ氏はこの記事のなかで株式市場がバブルかどうかを見極める基準として6つの項目を挙げつつ、米国市場がそれぞれに対してどの程度の水準にあるかを説明しています。
本日はLinkedIn記事の元ネタであるBridgewater Associatesの記事(下記リンク)を参考にレイダリオの見解をまとめてみました。
バブルを見極める6つの基準と現在の米国株式市場
レイダリオはバブルかどうかは判断する基準として下記6点を挙げています。
- 現在の株価が伝統的な株価指標でどの程度の水準にあるか
- 株価は持続不可能な条件を織り込んでいるか
- 新規参入者がどの程度市場に入ってきているか
- 市場参加者は全体としてどの程度強気か
- 高レバレッジでの資金調達が買いを支えているか
- 投機目的もしくは価格上昇へのヘッジとしての先物買いがどの程度行われているか
ブリッジウォーターでは検討対象のすべての個別銘柄で上記6項目の評価付けしており、これらを合計して市場全体の評価も行っています。
これらの基準に基づき、現在の米国株式市場を、①1930年代の世界恐慌、②2000年前後のドットコムバブル、③2008年の世界金融危機の前と比較したものが下表です。
各項目が赤字でBubble/Frothyと評価された1920年代後半(世界恐慌前)、1990年代後半(ドットコムバブル前)では、100パーセンタイルのバブル指数を記録(上図の赤丸部分)しており、これ以上なくバブリーな状態だったことが分かります。
一方、現在の米国株式市場は77パーセンタイルのバブル指数(黒の横線)にとどまっており、市場全体を当時と比較すると幾分マシな状況であることが示唆されています。
ただ、レイダリオは米国市場のなかでも大きなバリュエーションの乖離が生じており、全くバブルでない企業もあるが、新興テック企業に代表される一部銘柄は異常なバブル的水準にあると述べています。
下記グラフは、米国市場の上位1,000社とS&P 500につき、バブル状態と判断された銘柄の時価総額が全体に占める割合を示したものです。
ドットコムバブル時にはバブル企業の時価総額割合が10%を超えており、極めて危険な状態だったことが分かります。
一方、現在この指標はS&P 500では3%、上位1,000社では5%となっており、S&P 500に含まれていない一部のバブル企業が、市場全体のバブル感を押し上げていることが分かります。
上図は2020年1月以降のバブル企業と時価総額上位500社のリターンを比較したものですが、バブル企業たちが圧倒的な差で米国市場の主要銘柄をアウトパフォームしていることが分かります。
レイダリオはこの動きが1970年代前半のNifty Fiftyバブル、1990年代後半のドットコムバブルを想起させると述べています。
また、自身は生まれていなかったため直接の記憶はないが、1920年代(大恐慌前)にも近いものがあるとも述べていますので、具体的なバブル企業のリストは開示されていませんが、バブルっぽい銘柄を保有している人は気をつけた方がいいかもしれません。
基準①:伝統的な株価指標での評価
いずれの指標の測定方法も公開されていませんので、詳細は不明ですが、この項目についてはおそらくPERやPBRなどの伝統的な株価指標をベースに計測しているものと思われます。
結果、ブリッジウォーターでは現在の価格水準は82パーセンタイルのところにあると評価しています。
かなり高い水準にあるものの、1920年代や1990年代に比べると幾分マシということですね。
基準②:株価は持続不可能な条件を織り込んでいないか
この指標は、株式が債券を上回るリターンを出すために必要な利益成長率を計測したものです。
現在の米国市場は77パーセンタイルのところにあると評価されています。
レイダリオはこの水準感について「株式に求められるリターンの絶対値から考えると高い水準にあるものの、債券価格との関係では極端に高いとは言えない」と述べています。
個人的には投資の世界でのこのような言い回しは「今買うのは高いからやめとけ」と解釈するのが正解な気がするのですが、皆様はいかがでしょうか。
なお、ご多分に漏れず、1920年代後半と1990年代後半には100パーセンタイルを記録しています。
基準③:新規参入者の状況
新規参入者が大量に市場に入ってくるのは、往々にして市場が最も盛り上がっており、ピークをつける直前となります。
したがって、市場への新規参入がどれほどあるかは時としてよいバブルの指標になり得るわけで、実際に1920年代・1990年代でもこのような傾向が見て取れました。
現在はロビンフッド族に代表される個人投資家たちが大量に市場に参入してきており、この観点から現在の米国市場を評価すると95パーセンタイルのところに位置しています。
なお、彼らが主に買っている銘柄は他の指標から見てもバブル企業と言えるものとレイダリオは言い切っていますので、これらの銘柄を触るなら、かなり注意した方がよさそうです。
基準④:市場のセンチメント
市場の雰囲気が強気であればあるほど、市場参加者たちはすでに資金の大半を投資済みである可能性が高く、したがってそこからの展開としては、更なる買いよりも売りが自然な流れとなります。
したがって、市場のセンチメントを図ることもバブルとの関係では重要になりますが、現在の米国市場は85パーセンタイルのところにあると評価されています。
この指標についても、市場全体がこの水準にあるというよりも、一部のバブル企業が市場の平均値を押し上げているというのが実態のようです。
特にSPACブームに代表されるように、IPOを取り巻くセンチメントは相当加熱しており、すでにドットコムバブルの水準を上回るところまできています。
ただこれも個人投資家の殺到による部分が大きいようで、プロのファンドマネージャーたちのセンチメントは直近でよりニュートラルな状態に戻ってきており、また企業の財務部門(自社株買い・M&A)についても基本的にはパンデミックを切り抜けることに注力している状態で、かつてのバブルのような状態にはなっていません。
基準⑤:レバレッジはどの程度まで高まっているか
ブリッジウォーターのこの指標ではオプション取引もレバレッジの一種とみなしていますが、現在の米国市場はドットコムバブル前ほどではないものの、80パーセンタイルをやや下回る水準にあると評価されています。
こちらの指標についても水準を押し上げているのは個人投資家によるオプション取引であり、多くの機関投資家や非バブル企業においてはこれよりもかなり低い水準のレバレッジ状況が確認されています。
上記のとおり、個別企業を対象としたオプション取引量はロビンフッド族などの取引を背景に過去最高を更新しています。
一方でレイダリオはこのような個人投資家の行動を除けば、現在の米国市場においては過剰なレバレッジの使用は見受けられないと述べています。
基準⑥:先物買いがどの程度行われているか
レイダリオはこの指標は特に先物買いの数字が明確に確認できるコモディティや不動産において特に有効であると述べています。
一方、株式の場合には一般的に企業のCapexなどの数字を見て、インフラや工場などへの先行投資の状況を計っているとのことです。
この指標の数字はほかの5つの指標よりも明らかに弱く、全体のバブル指数を引き下げてくれています。
企業のCapexとM&Aがこの指標を引き上げる最も重要な要素なため、他の指標に大きな動きがないまま、この辺りの動きが活発になってくれば、よりバブル感が高まってくることになり、一層の警戒が必要になりそうです。
私はバブル銘柄は持っていないし、このままでいいかな…
本日紹介した指標について、レイダリオは「マーケットの天井や底を捉えることは出来ないが、投資対象の今後3~5年の相対的なパフォーマンスを予測するのにはかなり良い指標」だと述べています。
私の場合にはすでに米国市場の比率は半分程度まで落としたうえで、ETFでかなり分散した形をとりつつ、バブル銘柄は一切保有していませんので、改めてやることは特にないかなと思っています。
とはいうものの、こういった記事などを見ながら「今は割高感があるからあまり無茶はしない方がいいよなー」くらいの意識は持ちながら、今年はまったりと運用していければと思っています。
これからもレイダリオの動向には目を光らせつつ、長期分散運用を断行することで資産を拡大していく様を皆様にお見せしていければと思っています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
コメント
いつも興味深く拝読しています。
私もレイ・ダリオの手法には強い関心があり、このブログもとても参考にさせていただいています。
ところで、このバブルの指標というのは現在での状況ということのようですね。
今後、金利が上がったときにPERの高いGAFAMなどが大きく下げるかもしれない、というようなことがしばしば言われますが、どうなんでしょうね。
コメントありがとうございます。もちろん理論的にはそうだと思いますが、どうなんでしょうね…
個人的には単純にこれまでのバリュエーションが高すぎたので、どこかで調整が入るのは避けられず、そのきっかけに一番なりやすいのが金利上昇という感じなのではと思っています。
私自身は高PER株は持っていないので、その辺りはあまり真剣に見ていたり、考えているわけではありませんが…