私は2020年7月から米国物価連動債(TIPS/Treasury Inflation-Protected Securities)をそれなりに保有しております。
それ以前から物価連動債に興味はあったのですが、当時、レイダイオ氏が「今後の経済環境を考えるとゴールドと物価連動債が有効なリスクヘッジになり得る」と示唆していたことにも背中を押され、当時のポートフォリオの5%程度を物価連動債に振り向けました。
それ以来、物価連動債は私のポートフォリオの一角を占め続けており、2022年3月末時点では全体の9.5%が物価連動債ETF(SCHP)となっています。
最近、この愛すべき物価連動債ETFが興味深い動きを見せておりますので、記事にしてみました。
物価連動債とは?
物価連動債(インフレ連動債)は、物価上昇率(インフレ率)に応じて、元本が調整される債券です。
通常の固定利付債の場合、元本とクーポン利率は固定であり、利払い額および償還額は変動しないため、物価が上昇すれば、実質ベースでみた(物価上昇分を割り引いた実質的な)債券の価値は低下してしまいます。
一方、物価連動債の場合、クーポン利率は固定であるものの、物価上昇に連動して元本が増加するため、利払い額や償還額が増加します。従って物価連動債は、インフレがおきても実質的な価値が低下しない債券、といえます。
https://japan.pimco.com/ja-jp/resources/education/bond-basic-what-is-inflation-indexed-bonds
ざっくりいうと、インフレ率に連動して分配金が増減する債券という理解でよろしいかと思います。
デフォルトがないと仮定すると、確定利付債は名目利回りを保証してくれますが、物価連動債は実質利回りを保証してくれることになります。
物価連動債の保有はインフレ率が上昇し、実質金利が低下する環境において有利になるといえます。たとえば、インフレ率が上昇しているにもかかわらず、景気への配慮から中央銀行の利上げが迅速に実施されない局面などが考えられます。
https://japan.pimco.com/ja-jp/resources/education/bond-basic-what-is-inflation-indexed-bonds
一般的に低金利かつ高インフレの時期に最もよいパフォーマンスを期待できるとされます。
2020年までは見向きもされない存在…
前述のとおり、私は2020年7月から物価連動債ETFを保有しているのですが、当時はパンデミック真っ只中でワクチンも開発されておらず、不確実性が著しく高い時期でした。
コロナショックによってFRBは金利をゼロまで引き下げ、かつインフレ率も低空飛行が長年続いている状況だったため、物価連動債には当時誰も興味を示していなかったような印象があります。
レイダイオ氏が具体的な投資対象として名前を出してからも、少なくとも日本においては世間の関心がそれほど高まったようには感じませんでしたし、個人投資家で物価連動債を保有していた人はかなりの少数派だった気が致します(もしかすると今日現在でもそうかもしれません)。
ただ、これも当時の物価連動債の利回りを見てみると無理もないことで、私自身も「これほんとに持っていて意味あるんかいな」と何度か思いました。
ご覧のとおり、2011年からの10年間で、物価連動債(SCHP)の利回りが10年国債を上回ったのは2018年のみで、基本的に確定利付債を握っていたほうがリターンがよかったのです。
更に言えば、1996~2021年までの25年間、コアCPIは2%前後で安定的に推移し、3%を超えたことは一度もありませんでした。
これだけの長期間、適温のインフレ状態が続いていましたので、高インフレに備えることが主目的の物価連動債が不人気だったことも理解できます。
2021年から高インフレで利回りが急上昇
ところが2021年に入ってから米国でインフレ懸念が顕在化し始め、年末にかけて一気にインフレは加速しました。
それに伴い、私が保有するSCHPも配当を増加させていき、結果として2021年のSCHPの利回りは4.4%と、同時期の債券ETFでは高利回り債以外では達成不可能な水準に到達しました。
個人的にも、2021年も下半期になる頃には「これなら今の水準の配当が続くだけでも悪くないし、もしインフレが更に高進するなら面白いことになるかも!」と気持ちに変化が出てきました。
当時は10年国債の利回りが1.5%行くか行かないかという水準でしたから、それまでとは一転して物価連動債の方が遥かに魅力的になってきたというわけです。
2022年4月には遂に高利回り債に肩を並べる
そんな2021年が終わりを迎え、2022年に入ってからも、ご案内のとおり、インフレは止まっていません。
SCHPも加速していくインフレを背景に、2022年4月には同年2~3月の倍以上の分配金を出しました。
この結果、2021年5月からの直近12ヶ月(TTM)の利回りは5.1%に到達しました。
私が保有している高利回り債ETF(USHY)の利回りが5.2%ほどですから、物価連動債は遂に高利回り債と同等の利回り水準まで到達したことになります。
確定利付債券(10年国債)との比較でも、物価連動債の魅力が増していることが分かります。
今後はFRBが利上げと量的引き締めによって、インフレを退治しにかかると思いますので、どこまでこの高利回りが維持されるかは分かりませんが、少なくとも2022年に関しては結構な利回りが期待できるのではないかと思っています。
過去10年間とは異なる状況を想定して備えることが大事
レイダリオ氏は度々「多くの場合、金融市場において、これからの10年は直近の10年間とは大きく異なるものになる。したがって、投資家はこれまで慣れ親しんだ経済環境や相場とは大きく異なるものに対して備えなければならない。」といった趣旨のことを口にしています。
彼の書籍でも米国株式市場を10年ごとに振り返り、それぞれの10年間が直前の10年間と如何に異なるものだったかを述べていたりします。
運用の世界において、パフォーマンスの後追いは悪手とされておりますし、平均回帰を考えても、直近のパフォーマンスが優れなかった投資対象に資金を投じることは私自身は苦になりません。
レイダリオ氏は「どの資産クラスも自らに好ましい環境下においては、素晴らしいリターンを上げるポテンシャルがある」とも述べており、物価連動債のように長年の辛抱が報われる局面が、今後も様々な資産クラスで来ると思っています。
ですので、これからも複数の資産クラスにまたがる形で、自分が納得のいくポートフォリオを構築・維持していきたいと思っています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
コメント