私はポートフォリオの過半を占める債券が金利上昇に弱いことから、リスクヘッジとして金利上昇によって恩恵を受けるであろう金融株を一定程度保有することとしています。
本日はそのなかでも特に高配当で名高い豪州のウエストパック銀行(Ticker: WBK)について、分析・考察してみたいと思います。
WBKは本社をシドニーに置く豪州最古の銀行
WBKは、1817年に設立されたオーストラリアで最初の銀行であり、200年以上に渡り、オーストラリア経済の発展に貢献してきています。
元々は「Bank of New South Wales」という名前でしたが、1982年にCommercial Bank of Australiaを買収したのち、現在のWestpac Banking Corporationへと名称が変更されています。
現在は豪州の四大銀行のひとつであり、隣国・ニュージーランドでも最大手の一角を占めています。
ちなみに、豪州四大銀行のほかの3行は、National Australia Bank(NAB)、Commonwealth Bank(CommBank)、Australia and New Zealand Banking Group(ANZ)です。
オーストラリアでは四大銀行が銀行貸出の80%を占める寡占状態となっています。
したがって、オーストラリアが今後も人口の増加に伴い、経済成長を続けていくと仮定すれば、四大銀行はその恩恵を受けて同様に成長を続けていくことが予想されます。
WBKの業績推移(売上・利益)
それではWBKの財務情報を見ていきましょう。
まずは業績推移です。なお、ここからのグラフはWBKのAnnual Reportを基に作成しています。
これまで業績はかなり高い水準で安定していましたが、現在、豪州の金融業界では大変な事態が起こっています。
2018年以降、豪州の主要銀行が、資金洗浄への関与、金利の不正操作、書類の改ざん、顧客への架空請求など、過去に悪行の限りを尽くしてきたことが表に出てきてしまいました。
残念ながら、WBKにおいても2013~2019年の間に2,300万回を超えるマネーロンダリング法違反があり、そのなかにフィリピンの犯罪組織に関わるものがあったことが判明しています。この直後にCEOが責任を取って退任しています。
同業のCommonwealth Bank of Australiaでも同様の案件でCEOが退任を余儀なくされるとともに、豪州で過去最大の700百万豪ドル(約500億円)の罰金を払っています。
これらの結果を受けて、現在、豪政府は金融業界の構造改革と規制強化を検討しており、今後、業界はコンプライアンス対応等によりコストをかけなくてはならなくなることが予想されます。
また、過去に損害を与えた顧客に対する莫大な補償金の支払いもありますので、現在、銀行業界は極めて先行き不透明な状況となっています。
WBKのEPS(1株当たり利益)と配当の推移
次にWBKのEPS(1株当たり利益)と配当の推移を見てみましょう。
不祥事の影響を受けた2019年に久しぶりに減配しましたが、もともとの配当性向がかなり高めだったのでしょうがないかな、という感じです。
上記のとおり、安定配当の目安として70-75%の配当性向が示されていますが、これに加え、直近の厳しさを増しているビジネス環境を配慮し、今回の減配を決断した旨が投資家に説明されています。
WBKのキャッシュフロー(営業CF・投資CF・フリーCF)
次はWBKのキャッシュフローです。
ブレ幅の大きなキャッシュフローですが、銀行のキャッシュフローは事業の性質上、通常の事業会社とは大きく異なる特性があります。
例えば、営業CFには預かり金の増減も反映されていますし、その預かり金の運用手段である金融商品の購入や売却が投資CFに反映されてきます。
同業他社で言えば、イギリスのバークレイズは過去3年間営業CFも投資CFもプラスで潤沢なフリーCFを生み出している一方、アメリカのJPモルガンは、過去3年間、WBKと同じような出入りの激しい状況です。
個人的には、上表のとおりCash earningsが会計上の純利益とほとんど同じになっているので、あまりフリーCFを見る必要はなく、毎年の決算を見ておけばいいのではないかと思っています。
WBKの株価チャート
では、ここまでの情報を踏まえて、2020年1月10日時点でのWBKの株価チャートを見てみましょう。
現在の株価は2013年頃につけた最高値の35ドルから半値程度まで落ち込んでいます。
前述の不祥事等に加え、現在の豪州の政策金利が過去最低まで下がってきていることが効いています。
こちらはMorningstarのホームページ記載の配当情報です。
配当利回りを見てみると、過去5年間の平均は6.28%、直近の利回りは7.18%となっています。
株価の落ち込みによって、利回りが高まってきていますね。
結論:WBKは毒饅頭になり得る高配当銘柄
WBKはもともと高配当株として有名ですが、直近では不祥事をきっかけに株価が下がってさらに高配当化に拍車がかかっています。
個人的にはWBKは毒饅頭になり得るハイリスクな銘柄だと思っています。
購入した瞬間には高利回りを手に入れたつもりになれる(口に入れた瞬間は美味しい)のですが、しばらくすると株価が下落して大きな損失を抱える(毒が回る)可能性は否定できません。
とはいうものの、私の現在のポートフォリオのバランスを考慮すると、もう少し先進国の金融銘柄を組み入れたいこと、仮にここから3割減配しても購入価格に対する配当利回りを5%程度は確保できることから、リスクを取って買いに回りたいと思います。
以上、みんなが気になる高配当ADR・WBKについての考察でした。
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