タイトルのとおり、本家・米国リート市場には日本に存在しないセクターに投資しているREITの存在があります。
本日は我々日本人には馴染みの薄いこれらのセクターについてまとめました。
米国リートのセクター分類は12種類
業界団体・NAREIT(National Association of Real Estate Investment Trust/全米不動産投資信託協会)のウェブサイト(https://www.reit.com/what-reit/reit-sectors)では、米国リートのセクターは下記に分類されています。
- オフィス(Office REITs)
- 物流(Industrial REITs)
- 商業(Retail REITs)
- ホテル(Lodging REITs)
- 住宅(Residential REITs)
- 森林(Timberland REITs)
- ヘルスケア(Health Care REITs)
- 貸倉庫(Self-storage REITs)
- インフラ(Infrastructure REITs)
- データセンター(Data Center REITs)
- 特殊施設(Specialty REITs)
- 総合型(Diversified REITs)
1.オフィス~5.住宅、12.総合型は日本でも一般的なセクターですので、ここでは割愛させていただき、6.森林~11.特殊施設について、各セクターをリードするREITを取り上げ、簡単に見てみたいと思います。
森林リート(Timberland REITs)
米国で上場している4つの森林リートのうち、最も時価総額が大きいWeyerhaeuser(Ticker: WY)を取り上げます。
WYは民間で北米最大の森林オーナーで、他の森林リート比較的しても圧倒的な規模を誇ります。
WYの事業領域は林業、不動産・資源、加工木材の3つに分かれています。
収益構造としては、林業と木材が同規模で稼いでおり、不動産・資源は補完的にそれらの1/4程度稼いでいる感じです。
収益のほとんどは国内の第三者及びグループ会社への木材(原材料)販売から得ています。
なお、輸出先としては日本が輸出量の71%を占めており、重要な輸出先になっています。
広大な土地を所有するWYは、土地の一部を活用し、インフラ事業やエネルギー関連の収入も得ています。
ただ、前述のとおり、これらはあくまで林業と木材事業の補完的な位置づけですね。
加工木材事業は原材料を販売する林業に並んでWYの収益の柱です。
製品群の分散も意識して事業展開していることが分かります。
ヘルスケアリート(Health Care REITs)
米国で上場している16のヘルスケアリートのうち、最も時価総額が大きいWelltower(Ticker: WELL)を取り上げます。
WELLは世界最大のヘルスケア関連の不動産会社でS&P 500の構成銘柄でもあり、北米(アメリカ・カナダ)と英国で事業を展開しています。
WELLの事業は大きく高齢者住宅と外来医療施設のふたつに分けられますが、近年は全米に展開している医療機関(Health System)とJVを設立するなど、医療プラットフォームの強化も図っています。
上記のとおり、全米・カナダ・イギリスで数えきれないほどの高齢者向け住宅を保有しています。
ここでいう高齢者住宅(Senior Housing)とは、上図の青緑色の施設で主に医療サービスが不要か、軽度のサポートで足る方々を対象にした施設です。
なお、2019年末時点での稼働率は約88%でこの種のアセットとしては、高稼働を維持しています。
外来向け医療施設(Medical Office)についても、全米の大都市圏に展開しています。
上図は1999年からの入院患者(黄線)と外来患者(青線)ですが、入院患者数が横ばいなのに対し、外来が大きく伸びていることが分かります。
貸倉庫リート(Self-storage REITs)
米国で上場している6つのヘルスケアリートのうち、最も時価総額が大きいPublic Storage(Ticker: PSA)を取り上げます。
PSAは2019年12月末時点で米国と欧州に2,717もの貸倉庫を保有している世界最大の貸倉庫オーナー兼運営者であり、S&P 500とFT Global 500の構成銘柄にも選ばれています。
貸倉庫の規模感としては、個人用のクローゼットサイズから、大型車両やボートを補完できるスペースまで様々なものが提供されています。
また、業務用のスペースも提供しており、医薬品や建設資材の保管場所として利用な施設も保有しています。
個人向け施設に関しては、契約は月極でいつでも契約を解除可能という柔軟性が売りになっています。
2017~19年の稼働率は93%台と高稼働を維持しており、平均賃料(1平方フィート/年)も17.05ドルから17.60ドルに順調に伸びてきています。
インフラリート(Infrastructure REITs)
米国で上場している6つのインフラリートのうち、最も時価総額が大きいAmerican Tower Corporation(Ticker: AMT)を取り上げます。
AMTは米国の上場リートのなかで最大の時価総額を誇り、米国に限らず、南アメリカ・アフリカ・欧州・インドと幅広く事業展開をしています。
当然、主要指標であるS&P 500の構成銘柄にもなっています。
AMTの投資対象は通信基地でタワーの躯体部分と土地を所有するビジネスモデルです。
タワー上部のスペースを通信会社などに貸し出し、彼らがアンテナなどの電波を発する機器を取り付けて利用する代わりに賃料を払うという仕組みです。
上部のスペースを多くのテナントに貸せば貸すほど、大きなリターンが得られます。
国によって異なりますが、3つのテナントに貸し出した場合、コストに対して24~32%と非常に高いリターンが得られると説明されています。
データセンターリート(Data Center REITs)
米国で上場している5つのデータセンターリートのうち、最も時価総額が大きいEquinix(Ticker: EQIX)を取り上げます。
米国にとどまらず、5大陸・26か国で210のデータセンターを運営しています。
なお、先月、日本において、シンガポールのSWFであるGICと1,000億円超のJVを組成し、事業を進めていくことを発表しています。
テナントや地域ごとの収益構造をみても、特定の業種やエリアが突出しているということはなく、バランスが取れている印象です。
過去5年間、収入・EBITDAともに順調に伸びています。
収益の伸びに伴い、1株配当も毎年順調に伸びてきています。
特殊施設リート(Specialty REITs)
米国では12の特殊施設リートが上場しており、それぞれ特色があって興味深いです。
今回は時価総額が大きい銘柄のなかから、記録・情報の保管を専門とするIron Mountain(Ticker: IRM)と、カジノリートのGaming and Lisure Properties(Ticker: GLPI)をさらっと取り上げたいと思います。
まずはS&P 500にも選ばれているデータ保管のスペシャリストIRMからです。
事業の性質としては物流倉庫とデータセンターを合わせたようなものだと私は理解しており、様々な組織が長期間保存しなくてはならない資料やデータを補完する施設を運営しています。
ペーパーレスが出来ないものなどは、上記の写真のような感じでだいたい15年以上保管されているとのことです。
次にカジノリートのGLPIを見てみましょう。
うーん、このESG投資に反する感じがたまりませんね。通常カジノはホテルに併設されていますし、セクターの性質としてはホテルに近いのでしょうかね。
米国・中西部から東部にかけて、各州で1番のカジノを複数保有しています。
コロナ的には厳しいセクターだと思いますが、逆に日本のパチンコのように自覚がなくとも依存症になっている人が相当程度いるでしょうから、ある意味需要は底堅いのでしょうか…?
米国リートを勉強しておくと将来Jリートの分析にも役立つ可能性大
不動産に限らず、米国で起きた社会的変化や新たな産業・サービスはいずれ日本にやってきます。
日本のリート市場はまだ拡大途上ですし、将来的にはデータセンターや特殊施設に特化したJリートが出てくる可能性は十分あります。
ですので、今のうちから米国リートでこれからのセクターを学んでおくと、将来Jリートの分析にも活かせるのではないでしょうか。
個人的には、物流の次に社会的な構造変化の恩恵を受けそうなデータセンターをこれからも注目していきたいと思っています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
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