1960年に世界ではじめてREITが生まれた米国は、今でも世界で断トツの時価総額を誇るREIT市場を有しています。
タイトルのとおり、本家・米国リート市場が日本と大きく異なる点のひとつとして、モーゲージREITの存在があります。
本日は我々日本人には少々馴染みの薄いモーゲージREITについてまとめました。
モーゲージREIT(Mortgage REIT)とは
米国では日本には存在しないモーゲージREIT(Mortgage REIT)というものがあります。
米国ではREITとして認められるためには下記の条件を満たさなければなりませんが、2つ目の「Derive at least 75% of gross income from interest on mortgages that finance real property」がモーゲージREITの根拠となっています。
つまり、自分では物件を保有していなくても、不動産を保有・開発する人にお金を貸して、そこから得られる利息が収入の75%以上を占めれば、それでもOKということです。
これに対してJ-REITのように物件を保有し、そこからの賃料収入を主な収入源とするREITは、エクイティREIT(Equity REIT)と呼ばれます。
例えば、Aリートが投資家から集めたお金でオフィスビルを購入し、これを賃貸することで賃料収入を得ている場合、これは紛れもなくエクイティREITです。
一方、Bリートがオフィスビルを開発するディベロッパーにお金を貸し、そこから得られる利子を収入源とする場合、これはモーゲージREITということになります。
なお、この貸付による利子収入というのは、市場に流通しているMBS(Mortgage Backed Securities/不動産担保証券)などを保有することで間接的に貸し付ける形態を取ってもOKとなっています。
MBS(Mortgage Backed Securities)とは

MBS/RMBS/CMBSなどの不動産担保証券については、それだけで記事がいくつも書けてしまうレベルの奥深い世界なので、ここでは簡単に触れるにとどめます。
個人的にはローンを以下のふたつの側面から見ていくイメージを持つと多少分かりやすいのではと思っています。
①物件レベルの資金調達のなかでのリスク区分(ミクロレベル)
不動産会社・A社が自己資金20億円に加え、B社からメザニンローン20億円、C社からシニアローン60億円を引っ張り、100億円の物件を購入した場合を例にとりましょう。
A社…エクイティ・20億円
B社…メザニンローン・20億円
C社…シニアローン・60億円
もし物件価格が25%下落し、75億円で売却しなければならなくなった場合、各社の手元には以下の金額が残ることになります(単純化のため期中のキャッシュフローは考慮していません)。
A社…エクイティ・0億円
B社…メザニンローン・15億円
C社…シニアローン・60億円
メザニンローンの返済順位はシニアローンに劣後しますから、不測の事態が生じた場合には、まず事業主が全ての損失を負ったあとに、メザニンローンの貸手が損することになります。
したがって、メザニンローンはシニアローンに比べ、高いリスクがあり、その分高いリターンが期待できる(つまり利子が高い)ということになります。
参考までにメザニンファイナンスについてのDBJ(日本政策投資銀行)の記事を記載しておきます。

② 事業主・セクター・対象物件のリスク(マクロレベル)
上記は各物件レベルでのファイナンスにおけるリスクを見ましたが、そもそも事業主や物件、セクターによって、ファイナンスリスクは異なります。
例えば日本でいえば、三菱地所が開発する案件に融資するのと、創業間もない新興企業の開発案件に融資するのでは、当然リスクは異なりますし、貸手は後者に対してはより高いリターンを要求するわけです。
このように世の中には不動産を裏付けとしつつ、様々な性質のローンが存在します。
それらをミクロ・マクロレベルで自分たちが取りたいリスクや投資対象に合わせて、複数のローンを切り分け・組み合わせることで生成する証券がMBSです。
例えば、信用度が非常に高い借手に対する融資(例えば三菱地所)のうち、比較的リスクの高い部分を切り取る(例えばメザニンローン)などして、債務不履行のリスクを抑えつつ、それなりのリターンを追求するなどいった具合です。
モーゲージREITへの投資に際して確認すべき事項
最後にモーゲージREITへの投資に際して最低限確認すべき点を2つ挙げたいと思います。
①政府系金融公社の保証(Agency MBS)
上述のとおり、ジニーメイ(Ginnie Mae)、ファニーメイ(Fannie Mae)、フレディーマック(Freddie Mac)と言った政府系金融公社の元本支払い保証があるものはAgency MBSと呼ばれ、FRBが購入対象としています。
リーマンショックの際にはFRBは市場安定化のため、1.25兆ドル(約130兆円)のAgency MBSの購入プログラムを発動し、市中からこれらのMBSを買い取っていますし、今回も2020年3月以降、FRBは同様の政策を発動しています。
一方、政府系公社の保証がないものについては、債務不履行に陥った場合には当事者間のビジネスネゴとなり、Agency MBSと比較し、紙くずになる可能性が高いと言えます。
②レバレッジの水準(LTV/Loan to Value)
LTVというのは融資対象の価値(Value)に対する融資額の比率で、LTVが高いほどハイリスクということになります。
例えば先ほどA社(エクイティ)・B社(メザニン)・C社(シニア)の場合、当初のLTVは(20+60)/100=80%となります。
この場合、担保物件の価値が20%以上下落すると、レンダー(この場合はメザニンレンダーのB社)の元本が棄損することになり、一般的にはレンダーは借手であるA社に追加資金の拠出を要請することになります。
この時にA社が契約通りに追加資金を拠出できればよいのですが、これが出来ない場合には担保物件の所有権がレンダー側に移り、A社は出資金を全て失っておしまいということになります。
すでにこの追加資金を拠出できない状況が2020年3月下旬にNew York Mortgage TrsutやInvesco Mortgage CapitalなどのモーゲージREITで発生しています。
その後、New York Mortgageの方は4月上旬に一旦危機を脱した旨を発表していますが、Invescoはまだ続報が出ておらず、引き続き債権者とネゴをしているものと思われます。
今回の危機をすべてのREITが生き延びることは難しい
上述のとおり、すでにいくつか危険な兆候が出てきていますし、連日のように米国の小売業者や百貨店などの破産が報じられています。
したがって、今後も市況が落ち込み、NY MortgageやInvescoと同様の事態に陥るREITが出てくることを想定しておく方が賢明です。
米国の市場関係者の間でも、いくつかのモーゲージREITは今回の危機で破綻することになる(=全てが生き残ることは難しい)だろうという見方をする人が多いです。
したがって、今からモーゲージREITに投資をする場合には、一時的にはかなりの落ち込みを見せる可能性を念頭に投資戦略を組む方がよいと私は考えています。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
コメント