REIT(リート)と呼ばれる不動産投資信託について、日本のREIT(J-REIT)を例にとり、全力で解説してみました。
そもそもREITとは何かという点から、J-REITの市場規模、REITのメリット・デメリット、主な運用会社や投資対象セクター、不動産投資の重要指標までをまとめました。
※5,800字超の記事ですので、興味のある所だけ読んでいただいても結構です。
REITは不動産に投資したい!というニーズに応えるもの
ざっくり言うと、REITは不動産に投資したい人からお金を集め、その資金で不動産を購入し、そこから上がった収益をみんなで分け合うものです。
不動産はミドルリスク・ミドルリターンと言われ、収益の安定性、インフレヘッジ効果、融資の活用によるレバレッジ効果、価格変動の緩やかさなどを備えたそれなりに儲かる投資対象として一定の地位を築いています。
ところが、一般人が不動産へ投資しようとすると、多額の資金が必要なことに加え、専門知識も求められることから難しい側面もありました。
この状況を打開してくれたのが1960年に米国で生まれたREIT(Real Estate Investment Trust/不動産投資信託)という仕組みです。
REITは金融商品(投資信託)なので、簡単に言えば株や債券と同類でして、投資対象が不動産に絞られているものという理解でよろしいかと思います。
J-REITが保有する不動産は約24兆円(2019年3月末時点)
上記の国交省資料によると日本国内に存在する不動産約2,606兆円のうち、投資・事業目的の収益不動産が約224兆円あり、うち約24兆円をJ-REITが保有しています。
特にリーマンショック以降、J-REITは順調に伸びてきており、業界を所管する国交省も今後の更なる拡大を目指しています。
不動産と金融の中間体ともいえるREIT市場が今後も拡大していくことは間違いないでしょう。
なお、REITの時価総額の世界1位はぶっちぎりで米国ですが、日本はオーストラリアとほぼ同規模で世界2位を争っている状況です。
REITのメリット・デメリット
現物の不動産投資と比較した場合のREITの主なメリットは以下のとおりです(出典:一般社団法人投資信託協会)。
上記のうち、特に①高い流動性、②分散効果、③低ロットといった要素が現物不動産投資の主なデメリットを解消してくれており、90年代以降のREITの爆発的な普及を支えています。
一方、現物不動産投資と比較したREITの一番のデメリットは、REITでは不動産を所有することで得られる税制上の優遇措置は受けられないことかと思います。
住宅ローン減税や、減価償却費による赤字を給与所得とぶつけて所得税の還付を受ける、といった類のメリットはREITだと受けられないということですね。
REITは誰が運用しているかが極めて重要
ここまで見てきたようにREITは投資家から集めた資金を専門家が運用して不動産を購入・運営していくものですので、誰がそのREITを運用しているかが最も重要と言っても過言ではありません。
ざっくり言えば、REITの運用会社は2つのタイプに分類できます。
①不動産事業を営んでいた会社が資産運用業(REIT運営)を始めた
泣く子も黙る三菱地所や三井不動産をはじめ、野村不動産、東急不動産、ヒューリック、森ビルなど、J-REITはこちらのタイプの方が多いですね。
②資産運用業を営んでいた会社が運用対象を不動産に拡大した
こちらは主に金融機関系の運用会社で、日系ならみずほ信託、大和証券、外資ならインベスコ、フォートレス(ソフトバンク傘下)などになります。あとは総合商社系でも三菱UBSなどこちらに近いものもあります。
正直なところ、ドメスティックな日本の不動産業界では①の方が強い場合が多く、このなかでも特に不動産業界での地位が高い会社が圧倒的に強いです。
具体的には三〇地所や三〇不動産レベルの会社なら、自社グループに不利な取引(自社ビルからのテナントの引き抜き等)を察知した段階で、当該テナント、仲介会社や移転先ビルオーナーに圧力をかけて取引を潰すことも可能です。
例えば「うちのビルからテナント抜くなら、御社には今後うちのグループと取引していただくことは難しくなりますね(=お宅は今後うちとの取引から排除するね)」とでも言えば一発です。
ちょっとダークな話ですが、不動産業界にはこういう側面もございます。
主な投資対象は6つのセクターに分かれる
J-REITが投資対象としている不動産は主に6つのタイプに分類されます。
- オフィス
- 住宅
- 商業
- 物流
- ホテル
- ヘルスケア
それぞれのセクターの特徴を簡単に解説します。
①オフィス
上述の業界内の序列がもろに出るセクターですので、業界順位の高い企業から順に強いと思って間違いありません。
このセクターは景気によって賃料・空室率・不動産価格が大きく変動するため、ボラティリティが高いことが特徴です。
②住宅
ここでいう住宅とは賃貸住宅を指し、分譲住宅や戸建住宅は通常含まれません。
賃貸住宅事業は参入障壁が低く、ドミナントなプレイヤーもいないため、群雄割拠と言えます。
このセクターの特徴は何と言っても賃料と入居率の安定性です。
大儲けすることは難しいセクターですが、不況期にも底堅いパフォーマンスが期待できます。
③商業
イオンモールなどに代表される郊外型ショッピングモールや、代官山・青山・心斎橋などに所在する都市型商業施設などが該当します。
Eコマースの台頭による構造的変化により、全世界的に商業セクターは苦しんでおり、最も逆風が吹いているセクターです。
個人的には今後何年かかるか分かりませんが、商業施設の閉鎖等によって、需給バランスが整うまではなるべく投資を避けたいセクターです。
④物流
上述のEコマースによる構造的変化の恩恵を受けているセクターが物流です。
全世界的に過去10年ほど最も高いパフォーマンスを記録してきています。
現時点においては、Covod-19の影響を最も受けていないセクターのひとつであり、個人的にはこれからも有望な投資対象のひとつだと考えています。
⑤ホテル
こちらも近年のインバウンドブームに乗っかり、大きく市場が拡大したセクターですが、Covid-19で壊滅的なダメージを受けています。
元々、季節による稼働率・室料の変動が大きく、リスクが高いセクターでしたが、このところ悪い面だけが全面に出てしまっています。
バフェットが航空株を全て手放したように、目先の数年はかつてのような人の移動が戻らない可能性があり、そうなるとホテルはしばらくは苦しい戦いを強いられるものと思われます。
⑥ヘルスケア
先進国を中心とした高齢化の進展を背景に、高齢者向け施設を投資対象としたREITが新たなセクターとして近年出てきています。
マクロ的な視点から人口動態に基づいて有望視されることはよくわかるのですが、個人手には今の段階で手を出すのはちょっと難しいかなと思っています。
単純に運用実績に乏しく、不況期にどういった動きを見せるかわからない点もありますし、施設の運営会社が中小規模で乱立している状況のため、オフィスなどのように「この会社なら安心!」という運営会社・投資対象を見つけられないこともあります。
したがって、個人的にはこのセクターに投資をするのは、ある程度トラックレコードができ、セクターとしての特性が明確になった段階でもいいのではないかと考えています。
J-REITの全銘柄の情報をまとめているサイトがある
現在J-REITとして64銘柄が上場していますが、我々が投資可能なJ-REITの全銘柄の情報を下記ウェブサイトで確認可能です。
【すべての投資家のための不動産投信情報ポータル】http://www.japan-reit.com/
無料の会員登録をすれば、様々な機能が使えるようになります。
はっきり言ってこのサイトはめちゃくちゃ使えるので、J-REITに興味がある方は登録することをおすすめします。
J-REITの平均利回りは4.92%、時価総額は12.2兆円(2020年5月1日時点)となっています。
「銘柄数も多いし、自分で銘柄選定するのはちょっとしんどいな」という方は、上場REITを広くカバーするETFがありますので、ETFの活用がおすすめです。
不動産投資で重要な2つの要素(NOI・Cap Rate)
不動産投資における重要指標であるNOIとCap Rateについて、簡単に説明したいと思います。
① NOI(Net Operating Income/営業純収益)
NOIとは簡単に言えば、(満室想定ではなく)実際の家賃収入から物件の運営費用(各種税金・維持管理費・光熱水費など)を引いた手取り収入です。
要は、その物件から実際にいくらのキャッシュが生まれるのか、という数字ですね。
業界ではこのNOIを収益性の指標として用いることが一般的で、不動産投資においてはNOIが最重要指標と言っても過言ではありません。
これは後述のとおり、もしNOIが低下すれば、保有期間中に受け取るインカムが減少するのみならず、物件価格も下落することとなり、逆もまた然りだからです。
不動産投資では支出の削減は難しい場合が多く、NOIを増やすためには収入(≒賃料収入)を増やさないといけないわけですが、賃料収入は「平均賃料」と「稼働率」のふたつの要素に分解できます。
よって、この2つの要素が今後どうなっていくかを予測することが重要であり、上記のような分析を各社は行うわけです。
なお、2020年3月末時点では全国のオフィス市場はほぼすべて空室率は過去最低で、賃料水準は過去最高という状態でした。
② Cap Rate(Capitalization Rate/キャップレート)
平たく言うと、Cap Rateとは物件の利回りのことです。
例えばNOIが1億円の物件を20億円で購入する場合、Cap Rateは5%(=1÷20)となり、25億円で購入する場合には4%(=1÷25)となります。
数式にすると「物件価格=NOI÷Cap Rate」または「Cap Rate=NOI÷物件価格」と表現でき、NOIをベースに計算する場合には「NOI利回り」という表現を使うこともあります。
ご覧のとおり、ここ10年すべてのセクターでCap Rateが下がり、物件価格は上昇しています。
Cap Rateは実質的には相場感そのものなため、先行きを予測することは困難ですが、確実に言えることは金利の動向に強く影響を受けるということです。
例えば金利が低下すると下記のダブルの効果で不動産価格は押し上げられます。
① 借入コストの低下
② 無リスク資産との利回り差の拡大
そのほかの要因としては、昨今の世界的な低金利の長期化に伴い、世界の機関投資家が債券の比率を下げ、不動産を含む他の資産へ資金を移す動きが進んでいることが挙げられます。
ここでいう機関投資家には、日本のGPIF、アブダビのADIA、ノルウェーのGPF、カナダのCPPIB、中国のCIC、シンガポールのGICなどの公的基金・年金などが含まれますが、彼らが運用する金額は桁違い(数十兆~数百兆円)です。
こういった巨額の資金の一部が日本の不動産市場にも流れて込んできており、不動産価格を上昇させるのに一役買っている側面があります。
Q1 2020をピークに不動産市場は下落局面に向かう
2020年3月まで長いこと好況だった不動産市場ですが、Covid-19によって状況は完全に変わりました。
ここからは完全に私見ですが、ワクチンの開発などにより、数か月のうちに状況が劇的に改善されない限りは、各セクターは以下のような状況になるのではないかと考えています。
まず、人の移動に最も直接的にかかわるホテルセクターでは、すでにいくつかの運営会社が破産しており、今後も空前絶後の厳しい状況が続くことでしょう。
同時にCovid-19以前より苦しい状況にあった商業セクターも一段と厳しい状況に追い込まれていくことになり、商業施設の閉鎖等もこれから出てくるでしょう。
そして、これらの状況を受けて経済全般が冷え込むと、ホテル・商業に遅れてオフィスセクターで空室率の上昇・賃料の低下が始まるでしょう。
住宅と物流は比較的持ちこたえると思いますが、経済環境の悪化で全セクター的にCap Rateが上昇すると思われますので、パフォーマンスの悪化は免れないでしょう。
ヘルスケアについては正直よくわかりませんが、基本的には資本力に乏しい事業者が多いと思いますので、景気が悪くなると資金繰り等で厳しい状況に追いやられる可能性が高いのではないでしょうか。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
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