債券はインフレに弱いですが、この弱点を補う物価連動債(TIPS/Treasury Inflation-Protected Securities)というものがあります。
私の尊敬するレイダリオも、昨今、従来の株式と債券を超えた分散投資の必要性を強調しており、そのなかで具体の投資対象として金(ゴールド)とともに挙げられているのが、物価連動債(TIPS)です。
本日はレイダリオもおすすめしている「物価連動債(TIPS)」について、まとめてみました。
インフレリスク(=物価上昇による購買力の低下)に備える
インフレ(=インフレーション)とは、継続的に物価上昇がおこり、お金(貨幣)のものを購入する力(購買力)が低下する現象のことです。
そして、物価上昇率(インフレ率)が高くなり、金融商品などの利率を上回ると、この金融商品に投資した人は、実質的な損失を被ることになります。
このような損失のリスクをインフレリスクといいます。
https://www.toushin.com/faq/risk-faq/inflation-risk/
具体例として、年2%の利回りが保証された金融商品に100万円投資した場合を想定してみましょう。
1年後には102万円が手に入りますが、この間、インフレ率が3%だったとすると、今なら100万円で買えるものの値段が1年後には103万円になってしまっています。
したがって、1年前なら手元にある現金で買えたはずのものが、1年後には年2%で運用した結果の102万円で購入しようとしても購入できません。
したがって、運用によって見かけ上は利益が出ていたとしても、実質的には(=購買力の観点では)損をしていることになります。
これがインフレによって被る「実質的な損失」が意味するところで、投資における実質リターンの考え方になります。
※上記の場合、名目リターンは2%だが、実質リターンは▲1%
債券は最もインフレに弱い金融商品のひとつ
このインフレリスクに最も弱い金融商品のひとつが債券です。
上述のとおり、債券利回りがインフレ率を下回ると実質リターンがマイナスになります。
つまり、インフレ率が2%の時に利回り2%以下の債券を保有することは、(現金よりはマシだとしても)マイナスの実質リターンを確定させていることになります。
また、このリスクはインフレ率が高まる局面においてより一層の脅威となります。
ある日、あなたが将来のインフレ率を2%と想定し、利回り3%の債券を購入したとしましょう。
当然、年1%の実質リターンを享受することが期待されるわけです。
しかし、その後、経済環境の変化等からインフレ率が4%に上昇してしまうと、利回り3%の債券から得られる実質リターンはプラス1%からマイナス1%に低下してしまうのです。
よって、債券はインフレ率が高まれば、その分だけ実質リターンが低下することになり、インフレに対して非常に脆弱だといえます。
物価連動債はインフレ率に応じて元本が調整される
物価連動債(インフレ連動債)は、物価上昇率(インフレ率)に応じて、元本が調整される債券です。
通常の固定利付債の場合、元本とクーポン利率は固定であり、利払い額および償還額は変動しないため、物価が上昇すれば、実質ベースでみた(物価上昇分を割り引いた実質的な)債券の価値は低下してしまいます。
一方、物価連動債の場合、クーポン利率は固定であるものの、物価上昇に連動して元本が増加するため、利払い額や償還額が増加します。従って物価連動債は、インフレがおきても実質的な価値が低下しない債券、といえます。
https://japan.pimco.com/ja-jp/resources/education/bond-basic-what-is-inflation-indexed-bonds
通常の確定利付債と物価連動債がどのように異なるのかを見てみましょう。
ここでは単純化のため、利回り5%・インフレ率3%・初期投資100万円と仮定し、その後2年間のクーポンと元本の推移を比較してみます。
まずは単純で分かりやすい確定利付債を見てみたいと思います。
<確定利付債:1年目>
クーポン:100万円×5%=5万円
元本:100万円(不変)
<確定利付債:2年目>
クーポン:100万円×5%=5万円
元本:100万円(不変)
確定利付債は2年間で10万円のクーポンを受け取り、元本は100万円で不変です。
一方、物価連動債ではどうなるでしょうか。
※物価連動債のクーポン利率は発行時点の実質利回りを想定
※実質利回り=(名目利回り-インフレ率)=(5%-3%)=2%
<物価連動債:1年目>
クーポン:元本×クーポン利率=100万円×2%=2万円
元本:元本×インフレ率=100万円+(100万円×3%)=103万円
<物価連動債:2年目>
クーポン:元本×クーポン利率=103万円×2%=2.06万円
元本:元本×インフレ率=103万円+(103万円×3%)=106.09万円
物価連動債は2年間で4.06万円のクーポンを受け取るとともに元本が106.09万円に成長しました。
実際には期待インフレ率によって、債券価格やクーポン利率が変わってきますが、上記の例でも物価連動債のコンセプトは理解できるかと思います。
また、財務省HPにあった「物価連動国債のイメージ」という図が分かりやすかったので掲載しておきます。
物価連動債に有利な経済環境(高インフレ・低実質金利)
物価連動債の保有はインフレ率が上昇し、実質金利が低下する環境において有利になるといえます。たとえば、インフレ率が上昇しているにもかかわらず、景気への配慮から中央銀行の利上げが迅速に実施されない局面などが考えられます。
https://japan.pimco.com/ja-jp/resources/education/bond-basic-what-is-inflation-indexed-bonds
物価連動債は実質価格で取引されますので、仮に名目金利が上昇したとしても、実質金利(=名目金利-インフレ率)が低下すれば価格は上昇します。
つまり、名目金利の上昇を上回るインフレ率の上昇があれば、物価連動債の価格は上昇する(=キャピタルゲインが期待できる)ということです。
名目金利が上昇すれば確定利付債の価格は下落してしまいますので、物価連動債は通常の債券と異なる性質を有する資産であることが分かります。
上述のとおり、インフレ率が高まれば、元本とクーポンがともに増加するので、物価連動債は確定利付債をアウトパフォームすることになり、高インフレ時には物価連動債は魅力的な投資対象です。
ここまでみたインフレ率・実質金利と、物価連動債のパフォーマンスの関係を整理した図は下記のとおりです。
SBI証券では物価連動債ETFは2銘柄が購入可能
ここまで紹介してきた物価連動債ですが、SBI証券では2銘柄(TIPとVTIP)の取扱があります。
TIPが歴史もあり、規模も大きいですが、経費率が0.19%でVTIPよりは高めです。
ただ、毎月分配金を出してくれるは嬉しいですね。
VTIPは規模は若干劣るものの、経費率が0.04%と驚異的な低さです。
四半期配当ですが、直近の分配金利回りではTIPを上回っています。
私自身はIB証券にてSCHPという物価連動債ETFを保有しておりますが、TIPもVTIPも非常に優れたETFだと思っています。
特に債券ポジションを持っている投資家はインフレリスクのヘッジとして物価連動債ETFの保有を検討してみてもよいのではないでしょうか。
本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
コメント
[…] 多くの本を読んだ中で、私が上記⑥の参考にしているのがこの本です。変化は急に起こらないので、状況を見ながら、国債ベアファンド、外貨預金、物価連動国債ファンドにて、対応できる。という概要です。私が口座開設したSBI証券でも物価連動債として、TIP, VTIPという物価連動米国債が購入できます。詳細はこちらも参照ください。 […]
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