【レイダリオに学ぶ】オールウェザー戦略の成り立ちとコンセプトについて【ブリッジウォーター】

オール・シーズンズ戦略

レイダリオ氏が創設した世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターのHPに『The All Weather Story』というオールウェザー戦略が生まれるまでの経緯や、同戦略の基本的なコンセプトをまとめたコラムがあります。

The All Weather Story
January 2012
The All Weather Story
August 2016: The story of how Bridgewater Associates created the All Weather investment strategy, the foundation of the ...

1996年に誕生したオールウェザー戦略は、現在では広く知られた投資手法である『リスクパリティー戦略』の本家本元であり、当ブログでも参考にしている『オールシーズンズ戦略』のベースにもなっています。

本日はこのオールウェザー戦略について、上記コラムの内容を参考にまとめました。

レイダリオはマックナゲットの生みの親!?

ブリッジウォーターが創業して間もない頃の話です。

あのマクドナルドがチキンマックナゲットの発売を検討しており、そのために大量の鶏肉を長期的に安定した価格で調達したいと考えていました。

スポットで買い付ける場合、もし鶏肉が値上がりしたら、商品を値上げするか、利益を減らすかの選択を迫られてしまうからです。

一方、養鶏業者はマクドナルドに対して固定価格での長期契約を結ぶことをためらいました。

もし原材料価格が値上がりしたら、鶏肉の価格に転嫁できないため、損失を被る恐れがあったからです。

この状況を受けて登場したのが我らがレイダイオ氏です。

マクドナルドから相談を受けたレイダイオ氏は、鶏肉の価格は下記の要素から構成されることに着目しました。

鶏肉=ひな鳥+トウモロコシ+大豆かす

ひな鳥の価格が占める割合は小さいことから、鶏肉の原価は基本的にひな鳥の食料であるトウモロコシと大豆の価格で決まります。

レイダイオ氏は、このふたつの価格を先物市場を利用して、養鶏業者が固定すれば、その価格に基づいてマクドナルドにも長期的な価格提示ができるのではないか、と提案しました。

彼のアドバイスから養鶏業者とマクドナルドは契約に至り、1983年にチキンマックナゲットが世に出たことを考えると、実はレイダイオ氏はマックナゲットの生みの親とも言える存在だったのです。

価格変動の要素を分解して分析することがカギ

このマックナゲットの事例は投資において重要なことを示唆しています。

あらゆる投資リターンは、いくつかの構成要素に分解することができ、各構成要素の変動要因を分析することが重要だということです。

すべての金融商品のリターンは以下の3つの要素に分解できます。

1)現金のリターン(キャッシュ)

2)資産クラスの超過リターン(ベータ)

3)銘柄選定・取引タイミングによる損益(アルファ)

つまり、リターン=キャッシュ+ベータ+アルファ、というわけですね。

1)現金のリターン(キャッシュ)

現金のリターンは中央銀行がコントロールしており、時期によって変動します。

米国では、1980年代に記録した15%超が最高ですが、現在は過去最低の0%となっています。

キャッシュリターンは他のすべての資産に影響を与える重要な要素ですが、投資家側ではコントロールすることはできません。

2)資産クラスの超過リターン(ベータ)

ベータは各資産が生み出す超過リターンですが、これは容易かつ安価に獲得可能です。

インデックスファンドを買えば、スキルも知識も不要で誰でもベータを手に入れらますし、コストも極めて安いです。

ベータが長期的にはキャッシュリターンを上回るというのは投資の世界においてほとんど存在しない確実なことのひとつです。

キャッシュリターンをベースとしてあらゆる資産価格が形成されるため、長期的には株式や債券などの金融資産のリターンはキャッシュリターンを上回るわけです。

例えば、米国10年債の利回りが2%台というのは歴史的には低い水準ですが、昨今の0%のキャッシュリターンとの比較では高いと言えます。

昨今の投資環境が特殊だった点は、現金のリターンがゼロという点であり、キャッシュリターンとの比較における相対的な資産価格ではないとブリッジウォーターは述べています。

3)銘柄選定・取引タイミングによる損益(アルファ)

多くの投資家がアルファを求めてトレードに励みますが、アルファはゼロサムゲームです。

売買が成立するということは売り手と買い手がいるわけで、片方は確実に損を出すことになります。

また、売買成立後の価格変動による両者の損益の合計はゼロになります。

したがって、投資家にとって重要なことはベータの配分であり、うまくトレードすることではない、とブリッジウォーターは述べています。

要は、トレードを頑張るより株式・債券・コモディティなどをどういった比率で組み合わせるかということに頭を使った方がいいよ、という我々へのアドバイスですね。

リスクを調整し、バランスの取れたポートフォリオを構築する

各資産クラスには以下のような特徴があります。

・株式は高成長期に最も優れたパフォーマンスを見せる

・債券はディスインフレのリセッション時に最も高いパフォーマンスを発揮する

・現金は市場から流動性が失われている環境で最も価値がある

すべての資産には特定の経済環境に対するバイアスがあり、一定の環境では優れたパフォーマンスを発揮するが、それ以外の状況ではパフォーマンスはあまり優れないのです。

世間で一般的な株式を中心とするポートフォリオは、今後の経済成長がすでに市場に織り込まれている期待値を上回ることにベットしているのと同義というわけです。

逆の言い方をすれば、株式を保有する場合、成長が市場の期待を下回るリスクに晒されているのです。

このリスクをヘッジするには、プラスの期待リターン(=ベータ)を持ち、かつ株式が下落する局面で上昇するような資産を同時に保有する必要があります。

当時、ブリッジウォーターが顧客に送ったメモでは、保有する株式と同程度のリスクになるように長期債を保有することでヘッジすべきと助言しています。

成長とインフレに対してバランスよくベットする

ブリッジウォーターでは、1980年代からテクノロジーの進歩に合わせ、膨大なデータを処理しながら、最も安定したリターンを生み出す、バランスの取れたポートフォリオを見つけようとしていました。

成長が期待値から乖離するリスク(=成長ショック)に対しては、株式と債券の組合せが機能することは知られていましたが、実はインフレが期待値から乖離するリスク(=インフレショック)に対してヘッジされたポートフォリオが最も優れたパフォーマンスを発揮することを彼らは発見した。

すなわち、成長とインフレがポートフォリオのパフォーマンスを左右する二大要素だということを発見したのです。

したがって、下記の4つの経済環境(高成長・低成長・高インフレ・低インフレ)に対して、同じだけリスクを取るようにポートフォリオを構築すれば、今後どの経済環境が訪れようとも常に安定的なパフォーマンスが期待できるだろうと彼らは考えました。

これがオールウェザー戦略のベースとなるコンセプトであり、何らかの事象が市場に与える影響も、当該事象が経済成長とインフレに与える影響を考えることでより効果的な分析ができると述べられています。

オールウェザー戦略には物価連動債が不可欠

この4つの経済環境に対して、それぞれ望ましい資産クラスをまとめたものが下記の表です。

このなかで右上(インフレ加速)と左下(成長減速)のボックスに入っているIL Bonds(Inflation-Linked Bonds)が物価連動債です。

物価連動債はTreasury Inflation-Protected Securities(TIPS)とも呼ばれますが、ブリッジウォーターはその分散効果に比べて世の投資家に十分に有効活用されていない資産クラスだといいます。

伝統的ポートフォリオは、株式と債券からなりますが、これらの資産はともにインフレの上昇局面に弱いです。

一方、物価連動債はインフレ上昇局面で優れたパフォーマンスが期待できるため、伝統的ポートフォリオに組み込むメリットが大きいと言えます。

インフレヘッジとしては、コモディティも同様に機能し得るため、ポートフォリオの一部をコモディティ(金など)に振り向けている投資家は多いと思います。

ただ、成長ショックに対しては物価連動債とコモディティの間には負の相関があるため、物価連動債はコモディティとの間にも分散効果が期待できるのです。

つまり、物価連動債は、株式と債券だけのポートフォリオの弱点を補完しつつ、コモディティとの間にも分散効果を発揮してくれるため、資産配分を検討するうえで非常に重要な存在といえます。

低リスク・低リターンと高リスク・高リターンは代替可能

リターンを犠牲にせずに4つのボックスに対するリスクを均等にするためにはレバレッジの活用が必要となります。

下記のとおり、各資産クラスはそれぞれ異なる期待リターンとリスクを持っています。

特に伝統的ポートフォリオを構成する株式と債券を見てみると、株式はおおむね6%程度、債券はおおむね2%程度の期待リターンとなっています。

したがって、株式は高リスク・高リターン、債券は低リスク・低リターン、と一般には認識されていますし、同時に債券を保有することは高いリターンを諦めることだと理解している人も多いと思います。

しかし、実際にはそうではありません。

下記の図は各資産クラスのリスク量あたりの期待リターン(リスク調整後リターン)を示しています。

これを見てみると、各資産のリスク調整後リターンは5%前後で大きな差がないことが分かる。

したがって、高リスク・高リターン資産(例えば株式)だけのポートフォリオよりも、高リスク資産と低リスク資産(例えば株式と債券)を組み合わせてレバレッジによってリスク量を調整する方が、分散効果の分だけリスクを抑えて同等のリターンを実現できる可能性が高いのです。

このコンセプトは『リスクパリティー戦略』としてすでに世に知れ渡っていますね。

まとめ:長期投資において重要なことは資産配分

ブリッジウォーターのコラムでは、長期投資において確実なことは2つだけだと述べています。

1)資産を保有し続けることは、現金を上回るリターンを生む

2)資産価格の変動は、市場の期待と現実との乖離によってもたらされる

この2つだけが信じるに足る事象であり、それ以外のこと(景気サイクル、キャッシュリターン、資産クラスごとのリターン・相関・ボラティリティの想定など)はすべて未来を予測していることと同義(=誰にもわからない)だということです。

ブリッジウォーターでさえも、いつどのような経済環境が訪れるかを正確に予測することはできないのです。

したがって、いかなる環境に対しても同じだけのリスクを取るようにした方がいいと考え、オールウェザー戦略が考案されています。

市場の期待よりも、①インフレが加速する、②インフレが減速する、③景気が加速する、④景気が減速する、という起き得る4つの状況に対して、それぞれ同程度のリスクを取ることがオールウェザー戦略の根幹です。

ブリッジウォーターは、投資家にとって真に必要なものは長期保有にふさわしい信頼に足る資産配分だと述べています。

そして、30年に及ぶ投資研究の成果としてオールウェザー戦略こそがその信頼に足る資産配分だというのがブリッジウォーターの出した答えだというのです。

この最後の言い回しはなかなかかっこいいですね。

株式市場が上昇局面ではこのようなリスクに着目したコンセプトの投資戦略は日の目を見ないことが多いですが、現在のような調整局面が長引けば、ブリッジウォーターのような運用手法に再び注目が集まる日が来るのではないかと思っています。

皆さんもオールウェザー戦略・オールシーズンズ戦略・リスクパリティー戦略などのコンセプトも参考しつつ、今後の投資戦略を練ってみてはいかがでしょうか。

本日は以上です。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。

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